皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマはSDS(安全データシート)の読み方についての続編です。
SDSには全部で以下の15項目があります。全て読む必要はありませんが、重要な所をポイントを押さえてやる必要があります。
前回の記事では SDSの最低限知っておくべき5項目 として紹介した1、2、3、9、15のうち、1、2、15を解説しました。
この記事では「3.組成及び成分情報」、「9.物理的及び化学的性質」を解説していきます。
SDS(安全データシート)とは何かがわからない人は以下の記事を参照してください。
前回の記事を読んでいない方は以下。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
3.組成及び成分情報
化学品を使用する前に成分の情報を把握しておくことは重要です。
単体溶剤であれば、その基本情報が書かれています。
混合溶剤の場合は、成分の情報と含有率が書かれています。
以下は、単体溶剤(トルエン)と混合溶剤(シンナー)のSDSです。
①単体溶剤の組成及び成分情報
単体溶剤の場合、組成及び成分情報には化学品名、別名、化学式、構造式など基本的な情報が書かれています。
この辺りは読んだ通りの情報しか得られませんし、そもそも単体溶剤を入手するからにはある程度把握されている内容だと思います。
個人的に重要だと考えている部分が2点あります。
CAS番号
CAS番号(きゃすばんごう)またはCASナンバー(きゃすなんばー)と呼ばれる番号です。
全ての単一の化学品にはこのCAS番号が設定されています。
化学品は製品名や別名も多く非常にややこしいのですが、CAS番号だけは世界共通の番号となるため、それがどんな化学品であるか把握することができます。
例えとして、塩素系溶剤であるジクロロメタンを例に見ていきます。
ジクロロメタンには以下のような名称、略称、製品名があります。
(名称)ジクロロメタン、メチレンクロライド、二塩化メチレン、ジクロルメタン、二塩化メタン
(略称)ジクロロ、メチクロ、塩メチ、メチ
(製品名)メチレンクロライドスーパーM、メタクレン
これらを全て区別するのは中々難しいのですが、CAS番号は全て75-09-2です。
CAS番号はネット検索にも使えます。
試しに、上記のジクロロメタンのCAS番号である「75-09-2」のみで検索してみてください。
検索結果にジクロロメタンやメチレンクロライドと表示されると思います。
ちなみに、CAS番号のCASとはChemical Abstracts Serviceを意味します。
この略称元まで把握している方は少ないので、覚える必要はないです。
CAS番号について、知りたい方は以下を参照してください。
引用元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
純度
その化学品の純度を表します。
メーカーによって純度が異なっている場合があるため、自分が手にしたい純度のものかを確認してください。
上記のトルエンのSDSであれば、「99.0%以上」となっていますが、「99.9%」のものが必要であれば使用できませんし、「99.0%以上」必要なのに、もし純度が「98.0%」となっていれば、使用できないということになります。
「 単体溶剤の組成及び成分情報 」では、CAS番号と純度を確認しておく。CAS番号とは化学品ごとにある固有の番号である。
②混合溶剤の組成及び成分情報
シンナーや洗浄剤のような混合溶剤の場合、その成分の情報、成分の含有率やCAS番号が書かれています。
混合溶剤を使用する前に、その製品にどんな有機溶剤(化学品)が使用されているのか把握しておいた方がいいです。
ただし、全ての成分名が書かれているわけではなく、表記する義務のある有機溶剤の成分名が書かれています。
表記する義務とは例えば、PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)や有機則(有機溶剤中毒予防規則)、特化則(特定化学物質予防規則)、化学物質のリスクアセスメント等に該当する有機溶剤です。
そのため、表記する義務のない物質については「非開示」となっていることが多いです。
これは混合溶剤において、何を混ぜるかはノウハウの部分に当たるため、開示義務以外のものは極力開示しないようにするという姿勢が企業にあるためです。
成分を開示していないからといって、有害性までわからなくなってしまうことはありません。
非開示の成分も含めて、混合溶剤としての全体の有害性を「2.危険有害性の要約」や「11.有害性情報」に記載しています。
「 混合溶剤の組成及び成分情報 」では、含有成分名と含有率を確認しておく。開示義務のない成分は「非開示」となっていることがある。
9.物理的及び化学的性質
続いて、「9.物理的及び化学的性質」の読み方について解説していきます。
こちらは単体溶剤と混合溶剤で表記されている項目は変わりませんが、先ほどと同様、トルエンと混合溶剤(シンナー)の 「9.物理的及び化学的性質」 の画像を載せます。
ここで書かれていることからどんなことが読み取れるのか、要点を絞って解説してきます。
融点・凝固点
融点・凝固点では、その化学物質が何℃で凍るか(液体から固体になるか)、または溶けるか(固体から液体になるか)の温度を指します。
有機溶剤の場合、ほとんど気にする必要はないのですが、中には融点・凝固点が高く、冬場に凍ってしまうものがあります。
例えば、ターシャリーブタノール(TBA)の融点・凝固点は25.6℃です。
つまり、夏以外の季節では凍る可能性があることがわかります。
ターシャリーブタノール(TBA) のSDSを見てみたい方は、以下を参照してください。
引用元:三協化学 ターシャリーブタノール [ t-Butanol ]のページ
融点・凝固点では、有機溶剤が凍るかどうかがわかる。溶剤使用前に融点・凝固点を確認しておく必要がある。
沸点、初留点及び沸点範囲
沸点、初留点及び沸点範囲では、その名の通り沸点について書かれています。
沸点とは、気化する(液体が気体になる)温度のことを指します。
初留点は、「しょりゅうてん」と言います。
単一の有機溶剤の場合、固有の沸点を持つため、表記してある沸点=初留点と言えますが、混合溶剤などの場合、沸点に幅があり、沸点の幅の最初の温度を初留点と言います。
単一溶剤の場合
アセトンの沸点:56.5℃(初留点は56.5℃)
混合溶剤の場合
灯油の沸点:150-300℃(初留点は150℃)
沸点を見ることで、有機溶剤の乾燥性のおおよその早さを知ることができます。
沸点とは、液体が気体になる温度のため、沸点が低ければ低いほど乾燥(気化すること)が早いと言えます。(実際にはこれ以外の要因も乾燥性に関わっていますので目安です)
参考に有機溶剤の沸点をいくつか載せておきます。沸点が低いほど乾燥が早い、沸点が高いほど乾燥が遅いということを意識しながら見てみてください。
HCFC-365mfc(フッ素系溶剤)の沸点:40.2℃
アセトンの沸点:56.5℃
エタノールの沸点:78.3℃
ノルマルへプタンの沸点:98.4℃
メチルイソブチルケトン(MIBK)の沸点:116℃
エチルセロソルブの沸点:135.6℃
プロピレングリコールの沸点:187.4℃
グリセリンの沸点:290℃
沸点では、有機溶剤のおおよその乾燥性の早さがわかる。沸点が低いほど乾燥が早く、沸点が高いほど乾燥が遅い。
引火点
引火点とは、液体がその温度に達した時、近くに点火源(火元)があると火が付く(引火する)時の温度です。
よく自然発火点と混同されやすいですが、自然発火点がその温度に達すると、自然に火が付くときの温度であるのに対し、引火点は勝手に火が付く温度ではなく、あくまで火元があった時に火が付くときの温度です。
個人的には自然発火点は消防署が出している動画を見るとイメージしやすいと思います。
引火点のイメージは以下を参考にしてください。
灯油の引火点は40℃なので、室温(20℃)で火元を近づけても燃えることはありません。
引火点は有機溶剤を使用する際の安全性を考えるうえでも重要です。
引火点が低ければ低いほど、作業する場所の環境に点火源がないかどうかを注意する必要があります。点火源はタバコなどの火や静電気などが当たります。
引火点への理解が乏しい余り起きてしまった爆発事故もあります。
引用元:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
また、引火点は有機溶剤の保管にも関わってきます。
日本の消防法では、有機溶剤は第四類の化学物質に当たり、引火点によって指定数量という保管できる量が決められています。
引火点が低ければ低いほど、火災になる危険性が高いため、保管できる量が小さいです。
消防法については以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
ちなみに、沸点と引火点はある程度相関性があります。
沸点が低い有機溶剤は引火点も低い傾向にあります。逆に沸点が高い有機溶剤は引火点も高いです。
つまり、乾燥性が早い有機溶剤ほど引火点が低いです。(一部例外もあります)
私は営業という立場上、お客様から「乾燥性が早くて、引火手の危険性が低い溶剤が欲しい」と言われるのですが、上記の理由により例外品以外での提案が難しいです。
引火点では、火元があった時に有機溶剤に引火する温度がわかる。勝手に火が付く自然発火点とは違うので注意。
密度及び相対密度
密度とは、その化学品の単位体積当りの質量のことを言います。
密度を用いることで、L(リットル)の入り目の製品をkg(キログラム)に直したり、逆にkg(キログラム)の入り目の製品をL(リットル)に直すことができます。
炭化水素系溶剤やシンナーはL(リットル)表記で販売されていることが多く、アルコール系溶剤やケトン系溶剤はkg(キログラム)表記で販売されていることが多いです。
メーカーによって設定している入り目が違うため、単価を比較する際に同じ単位にする必要があります。
L(リットル)をkg(キログラム)にする時は容量(L)と比重を掛け算します。
kg(キログラム)をL(リットル)にする時は重さ(kg)を比重で割り算します。
①L(リットル)をkg(キログラム)にする
例:シンナー(比重:0.75)16L入り一斗缶をkg単位にする場合
計算:16(L)×0.75 = 12(kg)
② kg(キログラム)をL(リットル)にする
例:IPA(比重:0.79)14kg入り一斗缶をL単位にする場合
計算:14(kg)÷0.79 = 17.7(L)
簡単に思われるかもしれませんが、この種の問い合わせは非常に多いです。
「この製品は何kgですか?」とか「この製品は何Lですか?」など、比重を使った計算がわかっていれば問い合わせる必要もないのですが、わからない方が多いのだと思います。
比重を用いると、製品の入り目をL(リットル)に変換したり、kg(キログラム)に変換することができる。
補足
私が「9.物理的及び化学的性質」で見る部分は上記の4点だけです。
他の項目は見る人の立場によって必要か必要でないかが変わりますが、上記4点は有機溶剤を使用する人であれば使用する前に把握しておくべきだと思います。
また、上記4点以外の項目は混合溶剤になるとほとんど分かっておらず、「データなし」と表記されることが多いです。
メーカーでも「データなし」となっている部分は図る術がないため、記載していません。
SDS(安全データシート)の読み方(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
このブログの内容はYoutubeの内容を元にして書かれています。
Youtubeの内容はこのブログよりより端的に解説しています。
本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。
興味がある方は動画を閲覧ください。
1. 化学品及び会社情報
2. 危険有害性の要約
3. 組成及び成分情報
4. 応急措置
5. 火災時の措置
6. 漏出時の措置
7. 取扱い及び保管上の注意
8. 曝露防止及び保護措置
9. 物理的及び化学的性質
10. 安定性及び反応性
11. 有害性情報
12. 環境影響情報
13. 廃棄上の注意
14. 輸送上の注意
15. 適用法令