皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマはSDS(安全データシート)の読み方についての続編です。
SDSの読み方シリーズも第三弾となりました。
全部で5つのシリーズがありますが、全ての内容を理解いただければ、SDSを読む際に困ることはなくなると思います。
今回は、SDSの項目15個のうち「11.有害性情報」の読み方について解説していきます。
1. 化学品及び会社情報
2. 危険有害性の要約
3. 組成及び成分情報
4. 応急措置
5. 火災時の措置
6. 漏出時の措置
7. 取扱い及び保管上の注意
8. 曝露防止及び保護措置
9. 物理的及び化学的性質
10. 安定性及び反応性
11. 有害性情報
12. 環境影響情報
13. 廃棄上の注意
14. 輸送上の注意
15. 適用法令
これまでのシリーズを読んでいない方はSDSの読み方①から読んでください。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
2. 危険有害性の要約
「11.有害性情報」を読む前に関係の深い「2.危険有害性の要約」についてざっとおさらいします。
危険有害性の要約とは、その名の通り、化学品の危険性についてまとめられています。
全ての有機溶剤の使用者は、有機溶剤を使用する前に、この「危険有害性の要約」を読み、有機溶剤の有害性について理解しておいた方がいいです。
以下は、トルエンのSDSの危険有害性の要約を抜粋したものです。
引用元:三協化学株式会社
健康に対する有害性
「2. 危険有害性の要約」でまず初めに読むべき点は、「健康に対する有害性」の部分です。
ここでは化学品(有機溶剤)が、人の健康に対してどのような有害性を持っており、どの程度危険なのかがわかります。
上記の画像は、トルエンのSDSを抜粋したものですが、以下のような項目が記載されています。
項目を読めば、何となく有機溶剤にどんな有害性があるかわかるかと思います。
右側の区分とは何かもおさらいしておきましょう。
有害性区分
上の画像のように、危険有害性区分は区分の数字が小さいほど危険性が高いです。
例えば、トルエンの特定標的臓器毒性(短回曝露)では、区分1(中枢神経系)、
区分3(気道刺激性、麻酔作用)となっていますが、区分1である中枢神経系への影響性の方が区分3の気道刺激性、麻酔作用より大きいと言えます。
トルエンと言えば、シンナー中毒の原因物質として知られています。
いわゆる「ラリってる」という中毒症状は、この中枢神経系への有害性からくるものです。
その他有害性情報に関して詳しく知りたい方は以下を参照してください。
引用元:職場のあんぜんサイト 厚生労働省
「2.危険有害性の要約」では、有機溶剤の有害性が簡潔に書かれている。区分は数字が小さいほど危険性が高い。
どのように健康に対する有害性や区分を判断しているのか?
事前にSDSの「2.危険有害性の要約」を取り上げたのには理由があります。
有機溶剤や化学品について、その有害性や区分(ランク)が書かれていますが、どのように危険性を判断したのでしょうか?
それを具体的に知るための項目が「11.有害性情報」です。
11. 有害性情報
まずは、有害性情報の項目がどのようになっているか見て頂いた方がいいかもしれません。
以下はトルエンのSDSから有害性情報を画像で抜粋したものです。
ぱっと見た感じ、どうでしょうか?
書いてあることが細かすぎて、長すぎて、全く読む気にもならないと思った方が多いのではないでしょうか?
ちなみに、これは単体溶剤のSDSですので、有害性情報としては短い方です。
シンナーのような混合溶剤になると、この2~3倍ほどの有害性情報が書いてあります。
今回はこの部分を効率的に読んで理解する方法をわかりやすくお伝えしていきます。
「11.有害性情報」を読むためのコツ
「11.有害性情報」を読むためのコツは、ざっくりと読むことです。
具体的な事例をいくつか見た方がわかりやすいと思うので、早速見ていきましょう。
事例① トルエンの生殖毒性についての有害性情報
上の画像はトルエンのSDS「11.有害性情報」の生殖毒性について表記された部分を抜き出したものです。
上の文章だけ見ると頭が痛くなるかもしれませんが、ポイントは2つです。
①難しい単語、英語は飛ばして読む。
➁動物の種類、時間、経口・吸引などの行為、結果のみ掴む。
例えば、上の画像のような場合、以下のように抜粋します。
動物の種類…ヒト、女性
時間…長期
行為…吸引
結果…先天奇形増加のリスクが高かった
長期的にトルエンの吸引をすることで女性において奇形児のリスクが高かった、ということですね。
SDS上で、上記のポイントを四角で囲ってみたり、アンダーラインするだけでも見やすくなると思います。
「11.有害性情報」では、「2.危険有害性の要約」でなぜその有害性があるのか、その区分になるのかの詳細が書かれています。
トルエンには生殖毒性があり、区分1Aですが、その理由が「長期吸引した妊婦に先天奇形増加のリスクが高かった」「週3回トルエンに曝露された女性で自然流産が増加(別の行から抜粋)」となっているからだということがわかります。
事例② トルエンの生殖毒性についての有害性情報
続いて、トルエンの特定標的臓器毒性(反復曝露)で読み取り方の練習をしましょう。
先ほどの生殖毒性の部分以上に文章が長く、嫌気が指しそうですが、ポイントを押さえてざっと読むことに集中してください。
動物の種類…人(印刷労働者30名)
時間…平均29年間
行為…曝露(※曝露とは、吸引や皮膚に付くなどして体内に入ること全てを指します)
結果…疲労、記憶力障害、集中困難、情緒不安定
平均29年間というと、トルエンを使う現場でずっと働いていたということでしょう。
あまり参考にならないようにも思えますが、そのほかの部分を見ると、10代、20代の若い方でも異常が出ているようなので、相当に人体への影響が大きいことがわかります。
今回も赤枠で囲むとさらに読みやすくなるかと思います。
「11.有害性情報」は、難しい単語・英語を読み飛ばし、動物の種類、時間、行為、結果についてざっと読む。
混合溶剤のSDS「11.有害性情報」
続いて混合溶剤のSDSについて見ていきます。
以下はラッカーシンナーの「11.有害性情報」を抜き出したものです。
先ほどのトルエンの時は2枚だったのに対し、8枚に渡って記載されています。
混合溶剤の場合、混合溶剤としての有害性が記載されているのではなく、含まれている有機溶剤それぞれの有害性について記載されています。
このラッカーシンナーには5種類の成分が含まれています。
そのため、それぞれ5種類の成分について有害性情報が書かれています。
ただし、有害性情報の読み方、読むコツは先ほどと変わりません。
試しに1つの項目の難しい単語・英語を読み飛ばし、動物の種類、時間、行為、結果についてざっと読んでみましょう。
事例 ラッカーシンナーの眼刺激性についての有害性情報
以下は、ラッカーシンナーの眼刺激性に関する表記を抜き出した部分です。
このラッカーシンナーの眼刺激性は区分2Aです。
情報を抜き出すと以下のようになります。
含有溶剤名 | ノルマルブチルアルコール | メチルアルコール | 酢酸ブチル | 酢酸エチル | トルエン |
---|---|---|---|---|---|
動物の種類 | ウサギ | ウサギ | ウサギ | ウサギ | ウサギ |
時間 | 21日以内 | 72時間 | 48時間 | 2日 | 1時間 |
行為 | ? | ? | 0.1mL適用 | 0.1mL点眼 | 0.1mL適用 |
結果 | 中~強度の眼刺激性から完全回復 | 結膜浮腫から改善 | 虹彩炎から回復 | 角膜混濁 のち回復 | 結膜の発赤、浮腫、排出物 |
行為が良く読み取れなかったものは「?」としました。
ざっくり読む際に真剣に考える必要はなく、わからなければわからないで構いません。
眼刺激性の確認であること、他の実験過程から、点眼したものと推測されます。
先ほどと違い、ヒトで試験されたわけではなく、ウサギを使って試験されていますが、含有されている溶剤により様々な眼刺激性がありそうなことがわかります。
そのため、総合的に判断され、このラッカーシンナーの眼刺激性は区分2Aとされています。
混合溶剤のSDSは含有している溶剤によって、記述内容が長く、複雑になっているが、読み方のコツは単体溶剤と同じく、ざっくり読むこと。
SDSの読み方➃(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
これで「2.危険有害性の要約」を読み、その根拠を「11.有害性情報」から読み取れるようになったのではないかと思います。
このブログの内容はYoutubeの内容を元にして書かれています。
SDSの読み方はシリーズ化していまして、全部で6動画あります。
今回はシリーズの4番目「SDSから有害性情報を読む方法」の内容を元にしています。
本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。(より簡潔にしています)
興味がある方は動画を閲覧ください。
次の記事は以下から参照できます。
区分3(気道刺激性、麻酔作用)