ナフサとは?~石油ナフサと有機溶剤の関係をわかりやすく解説~

ナフサとは?~石油ナフサと有機溶剤の関係、石油化学製品はナフサから作られる~

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマは「ナフサとは?」についてです。

ナフサは多くの石油化学製品の原料となるものですが、特定の業界に携わっていないと耳にする機会もありません。

私自身、有機溶剤の業界に入るまでナフサというワードすら知りませんでした。

石油から生成されるものと聞いて思い浮かぶのは、ガソリンや灯油、軽油などガソリンスタンドにある製品ばかりです。

私のようにナフサのことがわからない方にもわかりやすく解説していきます。

ナフサとは?

ナフサとは石油から分けられる成分の1つです。

石油は私たちが生活の中で使用する燃料や原料が混ぜ合わさってできているおり、その1つがナフサということです。

もう少しわかりやすいように、段階的に解説していきます。

ナフサをガソリンや灯油からイメージする

ガソリンスタンドにある燃料をイメージして下さい。

ガソリン、軽油、灯油など様々な燃料があり、それらが石油から生成されているものだということは誰もが知っていると思います。

しかし、石油から取り出されるものはガソリン、軽油、灯油だけではありません。

石油を分ける際に、熱を掛けて、その温度によって取り出すものを分けています。

ちなみに熱を掛けて、液体を蒸発させ、再び液体として取り出すことを分留と言います。

石油は分留によって次の画像のように分けられています。

石油の分留とは?

石油を分留すると、まず一番低い温度では石油ガスが取れます。

一般的に、LPガス(Liquefied Petroleum Gas、液化石油ガス)と呼ばれるもので、タクシーの燃料やガスコンロの燃料として使用されます。

次に取れるのが、ガソリン・ナフサ留分です。

ガソリンとナフサは別の装置で分けられますが、ここで初めてナフサが登場します。

後ほど解説しますが、ナフサはさらにナフサクラッカー(ナフサ分解工場)で分けられます。

後は温度によって、灯油留分、軽油留分、重油・アスファルトと分かれていきます。

ここでは石油の分留について詳しく解説しませんが、石油から生成されたものが何の用途に使われているか詳しく知りたい方は以下を参照して下さい。

常圧蒸留装置のしくみ

引用元:一般社団法人日本エネルギー経済研究所 石油情報センター

石油が生成されている工場や蒸留塔の画像を見てみたい方は以下を参照してください。

石油精製工場

引用元:石油化学工業協会

ガソリンも灯油もナフサも色々混ざっている

よく一般の方が誤解しているのが、「ガソリン」「灯油」というものが単体の化学品であると思っていることです。

ガソリンと灯油は色んな化学品が混ざってできたものなので、ガソリン、灯油という名前の単一の化学品は存在しません。

例えば、ガソリンにはトルエンやキシレンを始めとして、数十種類の溶剤が混ぜ合わさってできています。

先ほどのように、石油を蒸留して出てくる成分の【まとまり】であるということを理解頂ければ幸いです。

ナフサも同様に数十種類の成分から構成されており、色んな化学品に分けられます。

石油化学品をガスクロマトグラフィーで分析する

構成される成分はガスクロマトグラフ分析によって分析することができます。

以下で、石油製品のガスクロマトグラフ分析の結果を確認することができますので、興味のある方は参照して下さい。

ガスクロマトグラフ分析の見方をざっくり説明すると、ギザギザ(ピークと言います)の数だけ成分が含まれています。

1つの山が1つの成分を指しているので、1つの石油製品には多くの化学成分が含まれていることがわかります。

石油製品のガスクロマトグラフ分析

引用元:一般社団法人 日本海事検定協会

ナフサクラッカーとは?

これまでの章で、ナフサが石油から分留されるものだとは理解頂けたのではないかと思います。

ここではナフサクラッカーについて説明していきます。

ナフサクラッカーとは、ナフサから様々な成分に分ける装置のことを言います。

ちなみにクラッカーというと、パーティーに使うクラッカーのことをイメージしがちですが、語源としてはcracking(熱分解)から来ています。

ナフサを分解するナフサクラッカー

ナフサクラッカーでは、ナフサを加熱して、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンに分解します。

1つの蒸留塔で行うというよりも、エチレン、プロピレンなどそれぞれの基礎化学品ごとに塔があるため、ナフサを分解する設備を総じて、ナフサ分解工場と呼ぶこともあります。

上記の画像では表示していませんが、分解されてできる成分は重さによって分けられています。

軽い成分と重い成分

エチレン  プロピレン  ブタジエン  ベンゼン  トルエン  キシレン

←軽い成分                          重い成分→

ナフサクラッカー、ナフサ分解工場の設備を画像で見たい方は以下を参照して下さい。

ナフサクラッカー、ナフサ分解工場

引用元:石油化学工業協会

ナフサから作られる有機溶剤

ナフサから分けられたエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンは様々な化学品の原料として使用されるのですが、ここでは有機溶剤に限定して説明していきます。

ナフサから作られる有機溶剤(その他のものも含む)を以下の表にしました。

ナフサから作られる有機溶剤
原料名有機溶剤名
エチレンエチレングリコール、ブタノール、酢酸エチル、エチレンオキサイド(EO)
プロピレンアセトン、IPA、ブタノール、プロピレンオキサイド(PO)
ブタジエン合成ゴム(SBR、NBR等)
ベンゼンシクロヘキサン、スチレン、シクロヘキサノン

※トルエン、キシレンはそのものが有機溶剤ですので、上記表には入れていません。

上記は代表的なものを示しています。

EO(エチレンオキサイド)やPO(プロピレンオキサイド)は有機溶剤ではありませんが、有機溶剤の原料として使用されます。

上記以外にも派生するものが多くあると考えると、ナフサが有機溶剤にとって非常に重要な原料であることがわかるかと思います。

軽いナフサと重いナフサ

マニアックな内容になりますが、ナフサには分留範囲によって、軽いナフサと重いナフサというものがあります。

軽いナフサをライトナフサ(軽質ナフサ)重いナフサをヘビーナフサ(重質ナフサ)と呼ばれるのが一般的です。

この軽い、重いというのは分留の範囲が違うのですが、エチレン、プロピレンなどの比重の軽い成分が多く含まれるのか、トルエン、キシレンのような比重の重い成分が多く含まれるのかの違いが出ます。

ライトナフサ、ヘビーナフサ
品名ライトナフサヘビーナフサ
密度(15℃)[g/cm3]0.65~0.700.70~0.76
分留範囲[℃]30~14040~230

日本は石油が採れない国なので、石油やナフサを海外から輸入していますが、財務省の貿易統計によると、日本は韓国から最もナフサを輸入しています。

韓国から入る多くのナフサはライトナフサで、オープンスペックと呼ばれるスペックが開示されたナフサを輸入しています。

ライトナフサをナフサクラッカーで分解すると、トルエンやキシレンなど重い成分が取れないので、ナフサクラッカーの稼働率によってはトルエン、キシレンが不足することもあります。

ナフサと有機溶剤の価格

ここまでで、石油からナフサ、ナフサから様々な有機溶剤が作られることが理解できたと思います。

ナフサ由来の有機溶剤はナフサの値段が上がると、価格が上昇します。

ナフサの変動に伴って、一定の改定幅を以って運用することをナフサフォーミュラと言います。

ここからはナフサと有機溶剤の価格の関係性について解説していきます。

ナフサフォーミュラとは?

ナフサフォーミュラとは前述の通り、ナフサ価格の増減に伴い一定間隔で単価を上げ下げすることを言います。

ナフサフォーミュラ以外に、ナフサリンク、ナフサ連動という言い方もします。

有機溶剤の種類やメーカーとの交渉によって価格改定間隔が異なりますが、1つ事例を出してナフサフォーミュラを紹介します。

ナフサフォーミュラの例

以下のように仮設定します。有機溶剤名は何でもいいので設定しません。

改定間隔:2N、ナフサ変動幅:+2000とすると、単価改定幅は4円/kgとなります。

改定間隔:1.5N、ナフサ変動幅:-3000とすると、単価改定幅は-4.5円/kgとなります

改定間隔は、「数字+N」で表現されます。1N、1.5N、2Nなどと書きます。

改定間隔の数字は、有機溶剤の種類やメーカー、購入数量によって変化します。

Nはナフサの変動幅を示しています。

ナフサ価格の単位は【円/KL】ですので、最終的に1000で割って【円/L】になります。

そのため、上記の①の事例を計算式で表すと、

2(改定間隔)×2000(円/KL)÷1000(円/KLを円/Lに直すため)=4(円/L or 円/kg)

円/kgと円/Lは別物ですが、ナフサフォーミュラは価格変更を決めるためのルールなので、円/Lだけでなく、どちらにも適用されます。

ナフサ価格推移の確認の仕方

ナフサフォーミュラが何かがわかったところで、ナフサがどのように推移しているのか確認する必要があります。

自分で調べる方法もありますが、手っ取り早いのは「ナフサ価格推移」「ナフサ価格」とネット検索するのが一番です。

直近の価格推移が掲載されているサイトを参考に載せておきます。

国産ナフサ価格推移

引用元:三協化学株式会社

参考にこのナフサ価格がどのように表記・計算されているのか記載します。

①石油連盟のサイトを確認

ナフサを自分で調べる場合、石油連盟のサイトを活用するのがおすすめです。

貿易統計リスト

引用元:石油連盟

サイト上には、以下3つが掲載されていますが、3の月次確報を開いてください。

01. 原油・粗油CIF価格(旬間速報)

02. 原油・粗油及び石油製品CIF価格(月次速報)

03. 原油・粗油及び石油製品CIF価格(月次確報)

ちなみに、輸入される品目は速報、確報、確定という3つの値があります。

大きくずれることはほとんどありませんが、数量を修正申告するなど、それぞれ数字が少し違ってきます。

ファイルを開いたら以下の値を見てください。

2022/7 確報

赤い四角で囲ってある83,648円/KLがナフサ推移を記載しているサイトの輸入ナフサの欄(以下)に記載されています。

ちなみにナフサは財務省の通関統計からでも計算することができますが、品目コードで「2710.12-181」、「2710.20-181」の2つを足して計算する必要があり、手間がかかるので、石油連盟のサイトをお勧めしています。

②輸入ナフサと国産ナフサの違い

次に、輸入ナフサと国産ナフサの違いを理解して、計算する必要があります。

輸入ナフサはあくまで日本に入ってきた素の状態のナフサ価格を指します。

国産ナフサ価格とは輸入してきたナフサをタンクに貯蔵したり、油層所のパイプや設備の使用コストが載った値となります。

国産ナフサは3ヵ月ごとに輸入ナフサをベースに計算されますが、その計算式は以下となります。

3ヵ月の輸入ナフサ単純平均(円/KL、十円以下四捨五入)+2000(円/KL)

基本的には上記計算後の値が3ヵ月ごとのナフサ価格として表記されますが、たまに数百円ずれることがあります。

これは、実際にはナフサ3ヵ月平均を経済産業省が計算するのですが、上記のような単純平均ではなく、加重平均を用いて1円単位で計算しているため、単純平均の計算とずれるときはずれます。

※1円単位の正確な計算は経済産業省以外できないので、一般的には単純平均で計算します。

ちなみに上記計算式の2000円/KLという値は、油層所のパイプや設備の使用コストをざっくり計算してこの値になるようです。

国産ナフサ価格の算出方法について詳しく知りたい方は以下を参照して下さい。

国産ナフサ価格の算出方法

引用元:石油化学記録簿 ※個人の方のブログです。

日本のナフサと化学品の価格決定

日本のナフサには速報値、確報値、確定値の3つがあると前述しましたが、この他にも化学品メーカーが独自に予想する予想ナフサというものがあります。

ナフサの速報、確報、確定値

確報ナフサはタイムリーに発表されるわけではなく、以下の画像のように2か月遅れで発表されます。

例えば、4月に通関された輸入データは、6月末に確報として発表されます。

その間にある程度集計された段階で速報が発表されますが、税関への修正申告等を済ませた確報値がある程度信用のおける値となります。

確報からさらに修正が加えられたものを確定として出しています。

私たちが目にする最新のナフサが3ヵ月平均は確報、確報、速報で構成されていることが多いです。

これらのスケジュールは以下の財務省貿易統計の公表予定から確認できます。

貿易統計 公表予定

引用元:財務省 貿易統計

予想ナフサと化学品の価格決定

一方、予想ナフサとは化学品メーカーが独自で設定するナフサの予想値のことです。

特にナフサが急激に値上がりしているときなどは、予想値をベースに化学品の価格決定が行われることがあります。

ナフサ予想値に対する考え方は、メーカーによって違います。

直近の出来事で言うと、ウクライナ戦争による原油価格の急騰を受け、各社が予想ナフサベースで値上げをしましたが、予想値を87000円を付けることもあれば、80000円で対応するところもあるなど、メーカーによってかなり対応が分かれました。

ナフサとは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

少しマニアックな話も書いてしまいましたが、ナフサについて理解いただけたでしょうか?

ナフサがガソリンや灯油の仲間であるということと、色んな有機溶剤はナフサから分解された化学品により作られるということがわかって頂ければ十分だと思います。

最近では石油ナフサの他に、サステナビリティの観点からバイオマスナフサ(バイオナフサ)というものが出てきました。

次回はバイオナフサについて書いていきます。

この記事はYoutubeにアップされた動画の内容を元に作成しています。※youtubeではより端的に解説しています。

興味がある方は動画を閲覧ください。