皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマは特定化学物質障害予防規則(通称:特化則)についてです。
有機溶剤と特定化学物質障害予防規則について解説をしてきます。
前回の有機溶剤中毒予防規則を理解してからこちらを読んで頂いた方が良いと思いますので、有機則がわからない方は前回の記事を参照してください。
そもそも有機溶剤が何かわからないという方は以下を参照してください。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
特定化学物質障害予防規則とは?
特定化学物質障害予防規則とは、通称「特化則(とっかそく)」とも呼ばれ、
簡単に言うと、「発がん性がある化学物質だから有機則より管理を厳しくするね」という規則です。
特定化学物質障害予防規則(特化則)は法令のため、有機則と同様に、指定されている有機溶剤を使っている場合は、決められたルールを守ることが義務となります。(詳しくは後に説明します。)
また、特化則も有機則と同様に、特化則の対象となる有機溶剤を使っている場合、その有機溶剤を使ってはいけないと思われている方がいますが、決められたルールを守れば使えます。
ただし、特化則の場合、有機溶剤自体の有害性が有機則の該当溶剤より高く、実際に労働災害が発生しているケースも多いので、対策すれば使い続けられるという認識より、他の有機溶剤に切り替えることができるのであれば切り替えた方が良いと思います。
特定化学物質障害予防規則について法令文を載せておきます。
このような法令文は固い日本語で書かれており、非常に文字量も多いので非常に理解しづらいです。
上記の特化則とは何かについては非常に噛み砕いて一言で書いています。
引用元:特定化学物質障害予防規則 | e-Gov法令検索
特定化学物質障害予防規則(通称:特化則)とは、発がん性があり、有機則よりも有害性が高いため、有機則厳しい管理のルールが定められた法令のこと。
第一類~第三類特定化学物質、特別管理物質について
特定化学物質には第一類、第二類、第三類特定化学物質の3つの分類があります。
数字が小さいほど危険度が高く、第一類物質が最も危険な物質群となります。
そして、各類の中で「発がん性のある、または発がん性の疑いのある物質」は特別管理物質に該当されます。
それではそれぞれどのようなものか具体的に見ていきましょう。
①第一類特定化学物質
第一類物質とは、「がん等の慢性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く、製造工程で特に厳重な管理(製造許可)を必要とするもの」とされています。
第一類物質には以下の化学物質が該当しています。※クリックすると表が展開されます。
化学物質名 | 分類 | 管理濃度 |
---|---|---|
ジクロルベンジジン及びその塩 | 特別管理物質 | 設定なし |
アルフア-ナフチルアミン及びその塩 | 特別管理物質 | 設定なし |
塩素化ビフエニル(PCB) | 非特別管理物質 | 0.01mg/m3 |
オルト-トリジン及びその塩 | 特別管理物質 | 設定なし |
ジアニシジン及びその塩 | 特別管理物質 | 設定なし |
ベリリウム及びその化合物 | 特別管理物質 | ベリリウムとして 0.001mg/m3 |
ベンゾトリクロリド | 特別管理物質 | 0.05ppm |
②第二類特定化学物質
第二類物質とは、「がん等の慢性障害を引き起こす物質のうち、第1類物質に該当しないもの」とされています。
第二類物質には以下の化学物質が該当しています。※クリックすると表が展開されます。
化学物質名 | 分類 | 管理濃度 |
---|---|---|
アクリルアミド | 非特別管理物質 | 0.1mg/m3 |
アクリロニトリル | 非特別管理物質 | 2ppm |
アルキル水銀化合物 (アルキル基がメチル基又はエチル基である物に限る) | 非特別管理物質 | 水銀として0.01mg/m3 |
インジウム化合物 | 特別管理物質 | 設定なし |
エチルベンゼン | 特別管理物質 | 20ppm |
ベリリウム及びその化合物 | 特別管理物質 | ベリリウムとして 0.001mg/m3 |
エチレンイミン | 特別管理物質 | 0.05ppm |
エチレンオキシド | 特別管理物質 | 1ppm |
塩化ビニル | 特別管理物質 | 2ppm |
塩素 | 非特別管理物質 | 0.5ppm |
オーラミン | 特別管理物質 | 設定なし |
オルト-トルイジン | 特別管理物質 | 1ppm |
オルト-フタロジニトリル | 非特別管理物質 | 0.01mg/m3 |
カドミウム及びその化合物 | 非特別管理物質 | カドミウムとして0.05mg/m3 |
クロム酸及びその塩 | 特別管理物質 | クロムとして0.05mg/m3 |
クロロホルム | 特別管理物質 | 3ppm |
クロロメチルメチルエーテル | 特別管理物質 | 設定なし |
五酸化バナジウム | 非特別管理物質 | バナジウムとして0.03mg/m3 |
コバルト及びその無機化合物 | 特別管理物質 | コバルトとして0.02mg/m3 |
コールタール | 特別管理物質 | ベンゼン可溶性成分として0.2mg/m3 |
酸化プロピレン | 特別管理物質 | 2ppm |
三酸化二アンチモン | 特別管理物質 | アンチモンとして0.1mg/m3 |
シアン化カリウム | 非特別管理物質 | シアンとして3mg/m3 |
シアン化水素 | 非特別管理物質 | 3ppm |
シアン化ナトリウム | 非特別管理物質 | シアンとして3mg/m3 |
四塩化炭素 | 特別管理物質 | 5ppm |
1,4-ジオキサン | 特別管理物質 | 10ppm |
1,2-ジクロロエタン(二塩化エチレン) | 特別管理物質 | 10ppm |
3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン | 特別管理物質 | 0.005mg/m3 |
1,2―ジクロロプロパン | 特別管理物質 | 1ppm |
ジクロロメタン(二塩化メチレン) | 特別管理物質 | 50ppm |
ジメチル―2,2―ジクロロビニルホスフェイト(DDVP) | 特別管理物質 | 0.1mg/m3 |
1,1―ジメチルヒドラジン | 特別管理物質 | 0.01ppm |
臭化メチル | 非特別管理物質 | 1ppm |
重クロム酸及びその塩 | 非特別管理物質 | クロムとして0.05 mg/m3 |
水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く) | 非特別管理物質 | 水銀として0.025mg/m3 |
スチレン | 特別管理物質 | 20ppm |
1,1,2,2―テトラクロロエタン(四塩化アセチレン) | 特別管理物質 | 1ppm |
テトラクロロエチレン(パークロルエチレン) | 特別管理物質 | 25ppm |
トリクロロエチレン | 特別管理物質 | 10ppm |
トリレンジイソシアネート | 非特別管理物質 | 0.005ppm |
ナフタレン | 特別管理物質 | 10ppm |
ニッケル化合物(ニッケルカルボニルを除き、粉状の物に限る。) | 特別管理物質 | ニッケルとして0.1mg/m3 |
ニッケルカルボニル | 特別管理物質 | 0.001ppm |
ニトログリコール | 非特別管理物質 | 0.05ppm |
パラ-ジメチルアミノアゾベンゼン | 特別管理物質 | 設定なし |
パラ-ニトロクロルベンゼン | 非特別管理物質 | 0.6mg/m3 |
砒(ひ)素及びその化合物(アルシン及び砒化ガリウムを除く) | 特別管理物質 | 砒素として0.003mg/m3 |
弗(ふっ)化水素 | 特別管理物質 | 0.5ppm |
ベータ-プロピオラクトン | 特別管理物質 | 0.5ppm |
ベンゼン | 特別管理物質 | 1ppm |
ペンタクロルフエノール(PCP)及びそのナトリウム塩 | 非特別管理物質 | ペンタクロルフェノールとして0.5mg/m3 |
ホルムアルデヒド | 特別管理物質 | 0.1ppm |
マゼンタ | 特別管理物質 | 設定なし |
マンガン及びその化合物 | 非特別管理物質 | マンガンとして0.2mg/m3 |
メチルイソブチルケトン | 特別管理物質 | 20ppm |
沃(よう)化メチ | 非特別管理物質 | 2ppm |
溶接ヒューム | 非特別管理物質 | マンガンとして 0.05mg/m3(レスピラブル粒子) |
リフラクトリーセラミックファイバー | 特別管理物質 | 5μm以上の繊維として0.3本/cm3 |
硫化水素 | 非特別管理物質 | 1ppm |
硫酸ジメチル | 非特別管理物質 | 0.1ppm |
②第三類特定化学物質
第三類物質とは、「大量漏えいにより急性中毒を引き起こす物質」とされています。
第三類物質には以下の化学物質が該当しています。※クリックすると表が展開されます。
化学物質名 | 分類 | 管理濃度 |
---|---|---|
アンモニア | 非特別管理物質 | 設定なし |
一酸化炭素 | 非特別管理物質 | 設定なし |
塩化水素 | 非特別管理物質 | 設定なし |
硝酸 | 非特別管理物質 | 設定なし |
二酸化硫黄 | 非特別管理物質 | 設定なし |
フェノール | 非特別管理物質 | 設定なし |
ホスゲン | 非特別管理物質 | 設定なし |
硫酸 | 非特別管理物質 | 設定なし |
※非特別管理物質…特別管理物質に非該当の意。
特定化学物質障害予防規則(特化則)には第一類から第三類までの分類があり、数字が小さい(第一類)ほど危険性の高い物質である。
特定化学物質障害予防規則のルール
特定化学物質障害予防規則の義務事項を確認していきましょう。
いくつか代表的なものを挙げてみます。
- 特定化学物質作業主任者の選任
- 従業員への有害性の周知
- 年2回(半年に1回)の特定化学物質健康診断実施
- 年2回(半年に1回)の作業環境測定実施
- 局所排気装置の設置(蒸気対策)
- 健康診断、作業記録、作業環境測定記録を30年間保存
- 身体の洗浄および洗濯の設備の設置(第一類、第二類物質使用時)
簡単に説明すると、有機則の義務事項+30年間の記録保存+身体の洗浄および洗濯の設備の設置が必要となります。
(ただし、有機則の義務事項の一部が特定化学物質を対象にしたものに変わっています。)
特定化学物質障害予防規則の中身は複雑なので、上記では非常に端的に説明しておりますので、より詳しく知りたい方は以下のリンクや法令文を参考にしてください。
引用元:厚生労働省
ここで理解して頂きたいこととしては、特化則に掛かる有機溶剤を使用するとどのようなことを遵守しなければならないのかということと、単純に特化則該当の有害溶剤を使用することが如何に手間であるかということです。
特に健康診断や作業記録など個人に関する記録を30年間保管するというのは非常に手間です。
特化則に該当する有機溶剤を使用する場合は、上記のことを予め留意した上で使用するようにしましょう。
特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当する有機溶剤の使用には有機則の義務事項+30年間の記録保存+身体の洗浄および洗濯の設備の設置が必要。
※ 実際は有機則の義務事項の一部が特定化学物質を対象にしたものに変わっています。(次の章参照)
特定化学物質障害予防規則(特化則)と有機溶剤中毒予防規則(有機則)の違い
特化則と有機則の違いをより理解するために、各項目を比較していきましょう。
特定化学物質障害予防規則(特化則) | 項目 | 有機溶剤中毒予防規則(有機則) |
---|---|---|
12種類 | 対象有機溶剤 | 45種類 |
特定化学物質健康診断 | 健康診断 | 有機溶剤健康診断 |
特定化学物質作業主任者の選任 有機溶剤作業主任者の選任 (※特別有機溶剤を使用の場合) | 作業主任者 | 有機溶剤作業主任者の選任 |
第1類、第2類物質の濃度 | 作業環境測定 | 該当する有機溶剤の濃度 |
30年 | 記録の保管 | 健康診断:5年、作業環境測定:3年 |
局所排気装置、呼吸用保護具等 | 蒸気対策 | 局所排気装置、呼吸用保護具等 |
特化則は発がん性がある(疑われる)化学物質を管理するためのものなので、特に記録の保管が非常に厳しくなっていることがわかります。
30年間同じ人が同じ仕事をするとは限らないので、労働者の作業記録、健康診断の記録など30年間分も管理・保管するのは中々容易なことではないです。
私も経験則として、よほど特化則に該当している有機溶剤でなければ作業できないものでない限り代替品に切り替えられえる企業が多いように思います。
特定化学物質障害予防規則(特化則)は有機溶剤中毒予防規則(有機則)と比較して、記録の保管期間が非常に長い。
特化則に該当する有機溶剤
前の章で特化則の第一類から第三類物質に分類される化学物質をリストで紹介しましたが、ここでは特化則に該当している有機溶剤のみ紹介します。
ちなみに、特化則に該当している有機溶剤は「特別有機溶剤」とも呼ばれます。
特別有機溶剤のリスト
有機溶剤名 | CAS No. | 管理濃度 |
---|---|---|
エチルベンゼン | 100-41-4 | 20ppm |
クロロホルム | 67-66-3 | 3ppm |
四塩化炭素 | 56-23-5 | 5ppm |
1,4―ジオキサン | 123-91-1 | 10ppm |
スチレン | 100-42-5 | 20ppm |
1,2―ジクロロエタン | 203-458-1 | 10ppm |
1,2―ジクロロプロパン | 78-87-5 | 1ppm |
1,1,2,2―テトラクロロエタン | 79-34-5 | 1ppm |
ジクロロメタン(メチレンクロライド) | 75-09-2 | 50ppm |
トリクロロエチレン | 79-01-6 | 10ppm |
テトラクロロエチレン(パークロロエチレン) | 127-18-4 | 25ppm |
MIBK(メチルイソブチルケトン) | 108-10-1 | 20ppm |
太文字で示したものが、工業用でよく使われている有機溶剤です。
塩素系溶剤(ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)は脱脂洗浄や樹脂洗浄剤として使用されています。
MIBKは塗料やインクなどの原料、シンナーの原料として使用されています。
エチルベンゼンはそれ単体では使用されているのをあまり見かけませんが、工業用のキシレンにはエチルベンゼンが混ざっているので、キシレンを使った塗料やインクなどに含有されてしまいます。
特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当している有機溶剤を特別有機溶剤といい、全部で12種類ある。
特化則の有機溶剤は有機則から移行した
特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当する有機溶剤は、有機溶剤中毒予防規則に該当していた有機溶剤から移行してきたものがほとんどです。
実際に以下のリストは厚生労働省が公開している有機溶剤中毒予防規則の該当溶剤リストです。
有機溶剤中毒を予防しましょう ※クリックするとPDFが開きます。
引用元:厚生労働省
現在もなぜか更新されないままネット上にアップされており、全部で54種類の有機溶剤がリストに載っていますが、実際は45種類になっています。
このリストでは「がん原性指針」という部分に「〇」が記されている有機溶剤がありますが、現在ではこの丸の付いた溶剤が特化則に移行しています。
特化則に移行した時の案内の一部が以下となります。
引用元:厚生労働省
特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当している有機溶剤のほとんどは有機則該当溶剤から移行した物質である。
なぜ有機則から特化則へ移行したのか?(有機溶剤の歴史上最大の事故)
では、なぜ有機則に該当していた溶剤が特化則に移行したのでしょうか?
それには私が知る限り工業用で使用される有機溶剤で史上最大の事故があったためです。
とある大阪の印刷会社で印刷機械などに付いたインキを落とす有機溶剤系の洗浄剤として、ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパンが含有されているものを使用していました。
(この印刷会社の名前は今でも検索すると出てきますが、ここでは表記することを控えます)
やがて、その会社で作業していた17人もの人が胆管がんを発症しました。そのうち9人が胆管がんにより亡くなっています。(2014年10月時点)
ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパンも発がん性がある物質ですが、局所排気装置や呼吸用保護具など有機溶剤の蒸気対策さえしていれば、こんな大勢の方ががんになることはなかったでしょう。
この会社の作業場は地下にあり、換気装置はあったようですが、空気の流れのない密室のような状態だったようです。
ジクロロプロパンの濃度が許容濃度の21倍もあったとされ、その中で保護具なしで長時間働いていれば、徐々に身体は有機溶剤に蝕まれていきます。
この他にも全国で塩素系溶剤を使用した事業所で胆管がんの発症者が見つかっており、発がん性のある溶剤類は特定化学物質障害予防規則(特化則)という、より管理の厳しい規則へ移行されました。
詳しい内容を知りたい方は以下に当時の経緯がよくまとまったサイトがありますので参照してください。
引用元:上記リンク先のサイト
大阪の印刷会社の胆管がんの事故がきっかけで、発がん性のある(疑いのある)物質は有機則から特化則へ移行した。
特定化学物質障害予防規則(特化則)とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
このブログの内容はYoutubeの内容を元にして書かれています。
特化則に該当している有機溶剤を使うべきではないとは思っていませんが、有機溶剤に関わる者として、やはり上記のような健康障害や死亡事故が無くなって欲しいと思います。
この記事やYoutubeの動画が少しでも事故を防ぐために、お役に立てれば幸いです。
本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。(より簡潔にしています)
興味がある方は動画を閲覧ください。