アニリン点とは?~脱脂洗浄力を見る指標、アニリン点とKB値との違い~

アニリン点とは? 脱脂洗浄力を見る指標、アニリン点とKB値の違い
アニリン点とは? 有機溶剤とアニリン点の関係

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマは「アニリン点とは?」についてです。

アニリン点は、脱脂洗浄力を見る際の指標として用いられるのですが、同じく炭化水素系洗浄剤の洗浄力を見る指標のKB値と混同されます。

今回はアニリン点とは何かということと、KB値との違いについて解説していきます。

KB値についてわからないという方は、前回の記事を参照して下さい。

KB値とは? カウリブタノール値とは?

アニリン点とは?

アニリン点とは、油脂の溶解性を示す数字のことを言います。

冒頭で、アニリン点を脱脂洗浄力を見る指標だと言いましたが、

「油脂溶解性が高い」=「油がよく溶ける」=「脱脂力が高い」と言えるためです。

アニリン点は脱脂洗浄力を見る指標であることから、炭化水素系洗浄剤の洗浄力を数値化する際によく用いられます。

別の記事で炭化水素系有機溶剤をデータベース化したものを用意してますが、アニリン点がわかるものは表内に表記しています。

有機溶剤データベース 炭化水素系溶剤

アニリンとは?

アニリン点の「アニリン」とは何を指すのでしょうか?

アニリンは、アニリンという化学物質のことで、以下のような構造をしています。

アニリン点を知る上で、アニリンが何なのかを知るぐらいで構いませんので、アニリンの物性等の解説はここではしません。

この後解説するアニリン点の測定方法にこのアニリンという物質を使用するということだけ押さえて頂ければ問題有りません。

アニリン点の測定方法

アニリン点の測定方法を上の画像に簡易的にまとめました。

アニリン点の測定方法

①アニリンをビーカー等の容器に入れ、アニリンと同量の測定試料(通常は炭化水素系有機溶剤が測定試料になる)を入れる。(アニリン:測定試料=5:5になるようにする)

➁アニリンと測定資料を混ぜた溶液を冷却していき、分離した時の温度をアニリン点とする。

アニリン点の測定手順は非常に簡単なことがわかります。

ちなみに、アニリン点は温度のことを指すので、単位は「℃」となります。

アニリン点は脱脂洗浄力(油脂溶解力)を見るための指標で、アニリンと測定試料を5:5で混ぜ、分祀した時の温度を指す。単位は℃。

有機溶剤のアニリン点とアニリン点の見方

ここからは有機溶剤のアニリン点を見ながら、アニリン点の見方を解説していきます。

以下に炭化水素系有機溶剤のアニリン点をいくつか挙げます。

炭化水素系有機溶剤
有機溶剤名アニリン点
ノルマルヘキサン59
シクロヘキサン30.2
ノルマルへプタン69.3
ベンゼン-30
トルエン-30
ホワイトガソリン55
灯油78

アニリン点は数字が小さい(低い)ほど、油脂溶解力が高いことを指します。

つまり、上の表においては灯油が最も油脂溶解力が低く、トルエンとベンゼンが最も油脂溶解力が高いと言えます。

数字を指標に脱脂力(油脂溶解力)の高さが簡単にわかります。

アニリン点が低いほど、油脂溶解力が高い理由

それでは、なぜアニリン点が低いほど油脂溶解力が高いと言えるのでしょうか?

それは一般的に液体温度が高いほど物質が溶け込みやすいという性質を持っているためです。

溶解度曲線の図を用いながら、わかりやすく解説していきます。

溶解度曲線とは、温度と物質が溶ける量の関係を表すグラフのことを言います。

上の画像は直線になっていますが、綺麗な直線になることはなく、温度が上がるに従って曲線上に物質が溶ける量が増えていきます。

溶解度曲線と言われるとわかりにくいという方もいると思いますので、もっと噛み砕いて説明していきます。

溶解度曲線のグラフ例

引用元:Wikipedia

砂糖やチョコは冷たい水と温かい水、どちらに溶けやすいか?

有機溶剤とは全く別の話になりますが、イメージしてみてください。

砂糖やチョコを溶かすとき、冷たい水と温かい水のどちらの方が溶けやすいでしょうか?

これは日常生活の中で多くの方が感覚的に持っているものだと思いますが、もちろん温かい水の方が溶けやすいです。

この場合は温度が上がることによって水の飽和量が上がるためなので、蒸気圧曲線とは違いますが、イメージは一緒です。

化学品も温度が上がるほど、物質が溶け込む量は多くなります。

アニリンと物質が同じ温度で分離するか否か

続いて、温度と物質の溶解性の関係をアニリンに置き換えて考えてみます。

液温が0℃の状態で、ビーカーにアニリンが入っているとして、溶剤A・溶剤Bをそれぞれのビーカーに加えていきます。

上の図のように、溶剤Aの方は溶けあったままの状態ですが、溶剤Bの方は分離しました。

この時、溶剤Aと溶剤Bのどちらが油脂溶解性があると言えるかというと、溶けあったままである溶剤Aの方になります。

溶剤Aの方が、まだ温度を下げられる余力もありますし、0℃の時点で溶剤Aを追加することができるという解釈もできます。

これがアニリン点が低いほど、油脂溶解性が高いと言える理由です。

アニリン点は値が低いほど脱脂洗浄力(油脂溶解力)が高いと言える

アニリン点の欠点

アニリン点が炭化水素系有機溶剤の油脂溶解性を見る指標として使用することができるというのは前述のとおりですが、アニリン点には欠点があります。

この記事の解説では、冒頭より炭化水素系有機溶剤に限定してアニリン点の用途を説明していますが、アニリン点が他の有機溶剤、洗浄剤類の脱脂力を測る指標として役に立つかというと、あまり役に立ちません。

アニリン点の欠点は測定時にアニリンと測定試料が分離しないと測定できないという点です。

アニリン点の試験からアニリン点の欠点を考える

前述した通り、アニリン点はアニリンと試料を5:5で混ぜて冷却していき、分離した時の温度をアニリン点と言います。

しかし、この試験方法では温度を下げたときにアニリンが分離しないとアニリン点が定まらないため、「分離する」ということが必須です。

炭化水素系有機溶剤以外の有機溶剤ではこの分離が起こらない(起こりにくいもの)があるため、有機溶剤全体として脱脂力の指標に用いることはできません。

アニリンが良く溶けるものはアニリン点が低くなる

アニリンは脱脂力の指標として用いられているものの、測定で使用している物質は実際の工業用油ではなく、「アニリン」です。

アニリンと油は性質も全く別物ですが、アニリン点の試験においては、アニリンが良く溶けるものをアニリン点が低い(油脂溶解性が高い)という結果になります。

アニリンとよく溶ける物質

・アルコール

・エーテル

・ベンゼン

アニリンとよく溶ける物質は上記のような物質です。

例えば、先ほど炭化水素系有機溶剤アニリン点をいくつか紹介しましたが、ベンゼンやトルエンがアニリン点が低く、油脂溶解性が高いという結果になりました。

なぜこれらの物質が良く溶けるかというと、化学構造の形が似ているからです。

全て亀の甲羅のような形(ベンゼン環)を持っており、溶けやすい性質があります。

アニリン点はあくまで参考値

アルコールやエーテルもベンゼンとは別の理由で、アニリンと溶けやすい傾向にあります。

アニリン点の定義としては、アニリンとよく溶けあう=アニリン点が低い=油脂溶解性が高い(脱脂力が高い)というものでしたが、アニリンと特別溶けやすいものについてはこの定義があてはまりません。

アルコールと言えば、エタノール、IPA(イソプロピルアルコール)、NPA(ノルマルプロピルアルコール)などがありますが、アルコール系有機溶剤はどれも脱脂力は高くありません。

ですが、アニリンとよく溶けあう性質を持っているので、アニリン点で油脂溶解性の高さを見ると、妙にアニリン点が低く出てしまいます。

このことから、アニリン点はあくまで炭化水素系有機溶剤にしか使うことができないため、あくまで参考程度の指標であることを理解しなければなりません。

アニリン点はアニリンと溶けやすいアルコール、エーテル、ベンゼンなどではアニリン点が低く出る傾向にあるため、参考程度の指標にしかならない。

アニリン点とKB値の違い

この章ではアニリン点とKB値の違いについて説明します。

アニリン点もKB値も脱脂洗浄力を見るための指標として用いられますが、その違いを理解できるよう解説していきます。

結論から言うと、アニリン点とKB値の違いは以下になります。

アニリン点とKB値の違い

アニリン点…油脂溶解性の高さを示す。

KB値…油脂飽和力(どれだけ油が溶けるか?)を示す。

もう少し具体的に違いが分かるように解説していきます。

KB値を測定方法から考える

前回の記事でKB値について書きましたが、KB値の試験は以下の図のように行います。

KB値の試験は、大まかに言うと以下の3ステップで行います。

KB値試験 3ステップ

①ビーカーのようなガラスでできた透明な容器にカウリブタノール樹脂(液体)を入れ、透明なガラス容器の下に文字の書いた紙を用意します。

➁KB値を測定したい洗浄剤、有機溶剤をガラスに滴下していきます。

➂ガラス容器の下に置いた紙の文字が見えなくなったら測定終了。

KB値の試験の場合、カウリブタノールの量は同じで、滴下する試料の量が違います。

つまり、試料がより多く溶け込む=飽和力が高いと言えるのです。

KB値は文字が見えなくなるまでの飼料の滴下量のことを言うので、滴下量が多ければ多いほど、カウリブタノール液を濁らせずに済んだということで油脂飽和力が高いという解釈になります。

溶剤名KB値
ノルマルヘキサン30.5
シクロヘキサン60
トルエン105

アニリン点を測定方法から考える

一方で、アニリン点はアニリンと試料を5:5で混ぜた後、温度だけを変化させます。

アニリンと試料の量は同じでも違いが出るのはなぜかというと、試料本来が持つ溶解力が違うためです。

このことから、アニリン点は油脂溶解力の高さ(脱脂力の高さ)を指すと言えます。

アニリン点は脱脂洗浄力の高さ(油脂溶解性の高さ)を指し、KB値は油脂飽和力を指すため、同じ脱脂力を見る指標のようで、内容は違う。

アニリン点とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

アニリン点について、色んな側面で解説してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

アニリン点もKB値も絶対的な数値化指標だと勘違いしていることがあるので、あくまで参考程度の指標だということを理解して頂ければ幸いです。

この記事はYoutubeにアップされた動画の内容を元に作成しています。※youtubeではより端的に解説しています。

興味がある方は動画を閲覧ください。