KB値とは?(カウリブタノール値とは?)~有機溶剤と洗浄力の指標KB値~

KB値とは? カウリブタノール値とは?

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマはKB値(カウリブタノール値)についてです。

有機溶剤の洗浄力、特に炭化水素系洗浄剤の洗浄力を見るときに使用される値です。

本記事ではKB値(カウリブタノール値)が何を表すのかということと、実際には対して参考になる数値ではないという体で記述していきます。

有機溶剤とは何かについてわからない方はまずは以下の記事を参照して下さい。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

カウリブタノールとは?

KB値のKBとは「カウリブタノール(Kauri butanol)」の頭文字を取っています。

カウリブタノールとは、カウリ樹脂という樹脂をブタノールに溶かした試薬のようなものです。

まずは、カウリ樹脂とブタノールについて説明していきます。

カウリ樹脂とは?

カウリ樹脂とは、カウリという木から取れる天然樹脂です。(上の画像がカウリの木です)

一般的に天然樹脂というと、天然ゴムや松脂、漆、琥珀などを指しますが、カウリ樹脂もその仲間だと考えてください。

カウリ樹脂はカウリガムとも呼ばれますが、樹液が長い期間かけて固まることでできます。

天然ゴムや松脂の仲間と考えると、そこまで貴重なものに思えませんが、カウリの木というものがとんでもなく貴重なものなんです。

カウリは屋久杉と姉妹木

カウリ樹脂(カウリガム)が取れるカウリという木は屋久杉と姉妹木と言われるほど、大変貴重な木の種類だそうです。

屋久杉から特殊な樹脂が取れるとして、日本人としてそれを化学実験の材料の1つには使おうとは思わないですよね?

もはや宝石級の価値があるのではないかと思います。

後述しますが、現在KB値を測るためのカウリ樹脂は手に入りません。

上記を理解頂ければ理由は明白だと思います。

カウリは屋久杉の姉妹木

引用元:樹樹日記

ブタノールとは?

ブタノールはN-ブタノール(ノルマルブタノール)と呼ばれるアルコール系有機溶剤の一種です。

アルコール系有機溶剤として大きな特徴があるわけではないですが、唯一特徴を上げるとすれば、消防法第四類第二石油類であるということです。

一般的によく知られているメタノール、エタノール、IPA(イソプロピルアルコール)などはどれも消防法上はアルコール類に該当しますが、ブタノールは第二石油類であるため、引火に関する安全性がやや高いと言えます。

溶解力自体はそんなに大きく変わらないと思いますので、なぜカウリブタノール液にブタノールが使われるようになったかという経緯は不明です。

以下、ブタノール(ノルマルブタノール)の基本的な物性を表記します。

N-ブタノール 物性
項目
密度及び/又は総体密度0.811
沸点117℃
引火点37℃
融点・凝固点-90℃

また、ブタノールは有機溶剤中毒予防規則に該当していますので、有害性は高いほうです。

ブタノールの有害性は以下です。

N-ブタノール 有害性
項目区分
急性毒性(経口)区分5
皮膚腐食性・刺激性区分2
眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性区分2A
特定標的臓器毒性(単回曝露)区分3(麻酔作用、気道刺激性)
特定標的臓器毒性(反復曝露)区分1(中枢神経系、聴覚器)
誤えん有害性区分2

有機溶剤中毒予防規則(有機則)がわからない方は、以下の記事を参照して下さい。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

カウリブタノールとは、カウリ樹脂とブタノールが溶液となったもの。カウリ樹脂は非常に貴重な樹脂である。

KB値(カウリブタノール値)とは?

カウリブタノールのことが分かったところで、KB値(カウリブタノール値)とは何かについて説明していきます。

KB値は脱脂洗浄力(油脂飽和力)を数値化したものです。

これを理解するために、KB値の試験がどうなっているのか理解する必要があります。

KB値(カウリブタノール値)の試験

KB値測定試験を簡単に説明すると上記画像のように3ステップとなります。

KB値試験 3ステップ

①ビーカーのようなガラスでできた透明な容器にカウリブタノール樹脂(液体)を入れ、透明なガラス容器の下に文字の書いた紙を用意します。

➁KB値を測定したい洗浄剤、有機溶剤をガラスに滴下していきます。

➂ガラス容器の下に置いた紙の文字が見えなくなったら測定終了。

文字が読めなくなるまで液体を滴下していくのですが、その滴下量(ml)分がいわゆるKB値となります。

KB値自体には単位はついていませんが、実際はミリリットル(mL)を意味しています。

KB値(カウリブタノール値)の見方

KB値(カウリブタノール値)の見方を説明します。

先ほど試験であったように、KB値とはKB値を測定したい洗浄剤・有機溶剤を滴下していった量のことを指しますが、数字が大きければ大きいほど洗浄力が大きいと言えます。

ここでいう洗浄力とは油脂飽和力のことを言い、脱脂洗浄力の指標として使われています。

実際に有機溶剤のKB値を見た方がわかりやすいと思うので、次で各有機溶剤のKB値を記載します。

有機溶剤のKB値 一覧

以下が有機溶剤のKB値一覧です。

有機溶剤名KB値
ノルマルヘキサン30.5
シクロヘキサン60
トルエン105
キシレン103
ベンゼン107
塩化メチレン136
トリクロロエチレン130
テトラクロロエチレン90
1-ブロモプロパン125

一般的に塩素系溶剤、臭素系溶剤は脱脂洗浄力が非常に高いという特徴がありますが、上記のKB値を見て頂くとわかるように明らかに前半の炭化水素系溶剤よりKB値が高いことがわかります。

また、炭化水素系溶剤の中でもトルエン、キシレンは脱脂洗浄力が優れている溶剤として知られているのですが、ノルマルヘキサンやシクロヘキサンのKB値と比べて、高いことがわかります。

なぜKB値(カウリブタノール値)が必要なのか?

なぜKB値が必要なのかというと、脱脂洗浄剤の検討段階である程度数値的に比較するためです。

例えば、ある企業が新たに脱脂洗浄剤を検討していたとします。

商品1~商品5ぐらいまでの複数商品を選定したとして、それを全て試験していたら時間がかかってしまいます。

そのため、KB値を参考にしてある程度洗浄剤や有機溶剤の持つ脱脂洗浄力を比較した上で、試験を行うというのが効率が良いからです。

メーカーからすると、提案する際に他の商品と比較して脱脂洗浄力がどれくらいあるのかを示すことができるため、営業しやすくなるという利点もあるでしょう。

つまり、KB値はメーカーが販売しやすく、ユーザーが検討しやすくするための指標であるということです。

KB値とは溶剤の脱脂洗浄力を数値化した指標となり、数字が大きいほど脱脂洗浄力が高いと言える。

KB値(カウリブタノール値)は参考指標でしかない理由

ここでは最初に記載した、「KB値はあくまで参考指標でしかない」と言われる理由を解説していきます。

KB値を測定するうえで問題となるのが2点あります。

①KB値は特定の溶剤で測定すると無限(∞)に近い値となり、測定できない。

➁カウリブタノールの試薬が手に入らない。

KB値は特定の溶剤で測定すると無限に近くなる

KB値はカウリブタノール溶液を使用して測定します。

カウリブタノールは前述のとおり、カウリ樹脂がブタノールに溶けた溶液と考えてもらえばいいです。

しかし、カウリ樹脂を溶かしている溶剤にブタノール(アルコール)を使用している影響で、KB値を測定したい溶剤としてアルコール類のものを選択すると、ブタノールとアルコール類は相溶性が高く、ずっと液体が濁らず透明なままの状態が続きます。

つまり、KB値の測定でいくら滴下しても濁らないので、KB値=無限となります。

わかりやすく例えると、カウリブタノール溶液を砂糖水であるとして、砂糖水に水を加え続けて濁るかどうかを測定しているようなものです。(絶対に濁らないですよね)

同様にアルコール以外でもアルコールと相性のいい有機溶剤だとKB値が極端に高くなってしまう場合があります。

そのため、通常は炭化水素系溶剤などアルコール類とあまり相性が良くないものの脱脂洗浄力指標として使われています。

KB値は参考指標でしかないと言われる最大の理由が、上記となります。

カウリブタノール溶液が手に入らない

2つ目の理由は、カウリブタノール溶液が手に入らないということです。

先ほどカウリ樹脂は非常に価値のあるものであると説明しましたが、カウリブタノール溶液が手に入らない理由はここにあるのではないかと考えられます。

私自身、営業をする中でメーカーの方がカタログにKB値を載せていると、

「どうやってカウリブタノール溶液を入手したんですか?」と聞いてみるのですが、

「たまたま入手できた」「古いものが残っていた」という理由が多く、安定的に入手できるものではないということを実感しています。

日本語で「カウリブタノール溶液 購入」「カウリブタノール 価格」というように検索しても、購入できるサイトは見たらないのですが、英語で検索するとそれっぽいものが検索結果で出てきます。

「Kauli butanol solution」と検索すると、以下のようなページがヒットします。

Kauri-Butanol Solution, Spectrum™ Chemical

引用元:Fisher Scientific

Kauri-Butanol Solution

引用元:Thomas Scientific

どちらも同じメーカー品であるようですが、500mLで約$1200です。

現在のレート(1$=136円)で計算すると、163000円もします。

輸入に関する輸送量は別ですので、輸送量等入れたら、500mL1本で20万円ぐらいいくのではないでしょうか。

ちなみに上記でKB値試験ができるかどうかまでは調べていないので、あくまで参考としてください。

KB値はアルコール類で無限に近い値を取ること、カウリブタノール溶液が手に入らないことからあくまで参考指標であることに注意。

KB値(カウリブタノール値)とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

脱脂洗浄剤を販売しようとするときに、KB値をご存じの販売店やユーザーからはよく「KB値ありますか?」と聞かれます。

私はいつも「KB値はありません。KB値は参考指標にしかならないので、実際にサンプル試験した方が早いですよ」と答えています。

KB値の測定がどういう方法で、何を使用しているのかということをしっかりと理解することで、「KB値はあくまで参考指標」ということがよくわかると思います。

逆に有機溶剤の洗浄するための指標を絶対的に数値化できる方法があったら便利だなとも思います。

他にもアニリン点という指標があるので、次回以降の記事で紹介していきます。

この記事はYoutubeにアップされた動画の内容を元に作成しています。※youtubeではより端的に解説しています。

興味がある方は動画を閲覧ください。