トルエンとは?~初めてでもわかる!有機溶剤徹底理解 トルエン編~

トルエンとは? 有機溶剤徹底理解 まっすーの有機溶剤情報局

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマは「トルエンとは?」についてです。

有機溶剤徹底理解編ではトルエンのことを全くわからない方でもトルエンのことがわかるように徹底的に解説していきます。

トルエンは有機溶剤の一種ですので、そもそも有機溶剤とは何かがわからない方は以下の記事を参照してください。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

トルエンとは?

トルエンは有機溶剤の一種で、炭化水素系有機溶剤の一つです。

トルエンは芳香族炭化水素という種類で、炭化水素系の中では珍しく油(脱脂)や樹脂の両方を溶かすことができます。

※通常、炭化水素系有機溶剤は油を溶解する力(脱脂力)があるものの、アセトンや酢酸エチルのような溶剤と比べて樹脂を溶かす力はありません。

油や樹脂の溶解力が優れている一方、有害性が非常に高いという特徴を持っています。

ちなみにトルエンは業界的にトロールという名前でも呼ばれます。

この他にも、トルエンはトルオール、メチルベンゼン、フェニルメタンとも呼ばれていますが、トルエンかトロールという名称さえ押さえておけば問題ないです。

ここからはトルエンの基本的な特徴を紹介していきます。

トルエンの3つの特徴

トルエンは工業的によく使用される溶剤ですが、その特徴を3つに絞って解説します。

トルエンの3つの特徴

①脱脂力・樹脂溶解力が高い

➁臭いが強い

➂劇物

①脱脂力・樹脂溶解力が高い

冒頭でも説明しましたが、トルエンは有機溶剤の中でも珍しく、脱脂力・樹脂溶解力が非常に高いです。

たいてい、有機溶剤の場合は、脱脂力はあるが樹脂溶解力がない、樹脂溶解力はあるが脱脂力がないという特徴を持ったものが多いですが、トルエンはどちらの能力も高い【二刀流】の有機溶剤です。

有機溶剤において、脱脂力・樹脂溶解力がともに高いものとして、トルエンの他に、キシレンやアセトン、ジクロロメタンのような塩素系溶剤などがあります。

後述しますが、この特徴を生かした用途として、様々な分野に活用されています。

➁臭いが強い

臭気は人によって感じ方も違うため、一概には言えませんが、臭いが強いというものです。

一般的に汎用的な溶剤は臭気が強いものが多い傾向がありますが、トルエンは悪臭防止法という法律に該当しています。

悪臭防止法とは、工場から排出される悪臭に対して規制を行う法律です。

詳しい法律内容が知りたい方は以下の法規情報を参照して下さい。

悪臭防止法

引用元:e-Gov

トルエンを単体で直接嗅いだことのある方は少ないと思いますが、シンナーのような臭いと言われればイメージしやすいのではないかと思います。

シンナーには様々な溶剤が混ざっていますが、いわゆる嗅ぎ続けると頭が痛くなりそうなシンナー臭の元となっているのがトルエンです。

③劇物(※毒物及び劇物取締法の劇物に該当している)

トルエンは毒物及び劇物取締法の劇物に該当しています。

毒物及び劇物取締法では、急性毒性の高い化学物質を劇物と定めているのですが、まさにトルエンが吸引等をしてから、急に毒性症状が現れてしまうほど有害性が高いものであるということを示しています。

毒物及び劇物取締法については別の記事で解説していますので、わからない方は以下を参照して下さい。

トルエンの有害性については後程書きます。

毒物及び劇物取締法とは? 有機溶剤と毒劇法の関係

トルエンの物性

SDSからトルエンの物性の主要な項目を抜き出したものが以下です。

トルエンの物性
項目
沸点110℃
引火点4℃
比重0.86
水への溶解性非水溶性

沸点は液体から気体になる時の温度を表しますので、有機溶剤では乾燥性を見る指標として利用します。

沸点110℃ということなので、水の沸点(100℃)より高いですが、実際にはトルエンの方が乾燥性は早いです。

前回アセトンについての解説(以下)をした際に、アセトンは沸点56℃でしたので、アセトンよりは乾燥性が遅いということがわかります。

有機溶剤徹底理解 アセトンとは?

比重は、水を基準としたときの比率のことを言い、トルエンの重さ(kg)や容量(L)を計算する際に使用します。

トルエンの比重が0.86ということは、1L当たりの重さが、860gということがわかります。

(※ここでは比重=密度としています)

また、今回物性等の参考にしているトルエンのSDSは以下から閲覧することが可能です。

トルエンのSDS

引用元:三協化学株式会社

トルエンは比較的安価で油も樹脂も溶かせる万能な溶剤だが、臭気が強く、毒劇物取締法に該当しており、有害性が高い有機溶剤である。

トルエンの有害性

次にトルエンの有害性情報を見ていきます。

以下はSDSの「2.有害性の要約」の健康に対する有害性から抜き出したものです。

トルエンの有害性
項目区分
急性毒性(吸入:蒸気)区分4
皮膚腐食性・刺激性​区分2
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性​​区分2B
生殖毒性​区分1A​
生殖毒性・授乳に対する又は授乳を介した影響追加区分
特定標的臓器 全身毒性 単回曝露 ​区分1( 中枢神経系)
区分3(気道刺激性、麻酔作用)​
特定標的臓器 全身毒性 反復曝露 ​区分1(中枢神経系、腎臓)
誤えん有害性区分1

トルエンは有機溶剤中毒予防規則(通称:有機則)に該当している有機溶剤で、比較的有害性が高いです。また、上記の特徴で挙げた通り、毒劇物取締法にも該当しています。

上記の有害性を見ると、生殖毒性、特定標的臓器全身毒性、誤嚥有害性で区分1、皮膚腐食性・刺激性、眼刺激性で区分2があるなど、有害性が高いことがわかります。

※区分とは区分の数字が高いほど有害性が高いということを表します。SDSの読み方については別の記事で解説しています。

SDSの読み方① 誰でも簡単にSDSを読む方法

トルエンはシンナー中毒の原因の1つとなる物質です。

ここからはシンナー中毒とトルエンの有害性について解説していきます。

シンナー中毒とトルエンの有害性

シンナー中毒というと、ほとんどの人が「ラリッた」状態、薬物・犯罪のようなイメージをされると思います。

一時期はシンナー遊びやシンナー中毒による犯罪が起きていたこともあったようです。

最近はシンナーに関連した事件・事故は聞かなくなりましたが、一時はテレビでも報道されていたことが多かった気がします。

シンナー遊びの末路

引用元:テレ東プラス

SDSから見るシンナー中毒の要因

トルエンのSDSを見ると、「特定標的臓器 全身毒性 単回曝露」、「特定標的臓器 全身毒性 反復曝露」で中枢神経系が区分1となっています。

「シンナーを吸った人はラリってしまう」という話は聞いたことはあるかもしれませんが、それはトルエンの中枢神経系への毒性が1つの原因です。

ラリるとは、薬物の影響で舌が回らなくなったり、ふらふらする状態のことを言いますが、これは薬物が中枢神経系にダメージを与えているということを表します。

ちなみに中枢神経系とは、脳から脊髄の体の信号を出す、中心の神経系のことを言います。

また、シンナーを吸い過ぎると脳がスカスカになるとも言いますが、これもシンナーに含まれているトルエンを中心とした中枢神経系に対する毒性を持つ化学物質の影響だと言えます。

トルエンのSDSにも有害性が詳しく書いてある

SDSの有害性項目や区分だけ見ても、具体的なことはわからないのですが、SDSを読み進めていくと、「11.有害性情報」にどんな症状があるのか詳しく書いてあります。

上の画像は、トルエンのSDS「11.有害性情報」に記載されている特定標的臓器毒性(単回曝露)の情報です。

ざっくりと呼んでいくと、以下の情報が読み取れます。

・750mg/m3を8時間吸入で、筋脱力、錯乱、協調窓外、散瞳

・シンナーを誤って経口摂取して死亡した15件の事例がある。

・死因は重度の中枢神経系抑制と考えられる。

少し読んだだけでも、かなり有害性が高いことがわかります。

トルエンの該当法規

トルエンはその有害性の高さから様々な法規に該当しています。

トルエンの該当法規
法規名項目
有機溶剤中毒予防規則第二種有機溶剤
毒劇物取締法劇物
PRTR法第一種指定化学物質​
大気汚染防止法有害大気汚染物質、優先取組物質
悪臭防止法​​指定物質

この中で特に有機溶剤中毒予防規則(有機則)の第二種有機溶剤に該当していることが重要で、企業がトルエンを1%以上含んだ製品を使用していると、特殊健康診断や作業環境測定をする義務が発生するなど管理にも手間がかかるため、代替化が可能な用途であれば代替した方がいいと考えられます。

トルエンは中枢神経系に対する有害性が高く、シンナー中毒の原因物質の1つである。また、有機則、PRTR等様々な法規に該当している。

トルエンの用途・業界

ここからはトルエンの用途やトルエンが使用されている業界について、画像を元にイメージで捉えていきます。

これまでの説明でトルエンが何かわからないという方でもわかるよう具体的な事例を元に見ていきましょう。

塗料・インク・接着剤の原料

トルエンは塗料やインク、接着剤の原料や希釈剤として使用されます。

塗料・インク・接着剤は主原料は樹脂ですが、この樹脂成分を溶かす役割を果たすのが、溶剤成分(トルエン)です。

トルエンは芳香族炭化水素と呼ばれる溶剤の系統で、樹脂の溶解力が非常に高く、安価で手に入りやすいという特徴があるため使用されています。

トルエンが含まれているかどうかを調べたい時は、ラベルかSDSを見てください。

トルエンはラベルやSDSに表示することが義務化されていますので、書いてなければ非含有ということになります。

シンナーの原料

トルエンはラッカーシンナーやメラミンシンナー、洗浄用シンナーなど様々なシンナーに含まれています。

ちなみにシンナーとは、語源的には薄め液や希釈剤のことを指しますが、トルエンのように樹脂も油も溶かしてしまう溶剤が入っている場合は、様々な用途に使用されます。

シンナーの用途

●樹脂溶解を目的とする場合

・塗料の希釈・洗浄

・接着剤の希釈・洗浄

・インクの希釈・洗浄

・樹脂汚れの洗浄

●脱脂を目的とする場合

・金属加工油(切削油、プレス油、研削油等)の除去

・製品仕上げのふき取り

これらの用途はトルエンの特徴で説明した①脱脂・樹脂溶解力が高いということを生かしています。

各種化学品の原料

トルエンはカメの甲羅のような化学構造があることから、様々な化学品の原料として使用されます。

私たちが手にする製品にはあまりありませんが、工業的な原料として以下のような化学品の原料として使用されています。

トルエンの原料系用途

医薬品、染料、香料、化薬(TNT)、有機顔料、甘味料、漂白剤、合成繊維、可塑剤 など

もちろん上記で書かれた用途の原料として全てにトルエンを使用しているわけではなく、製品の製造上、トルエンの構造が必要な場合に使用されます。

トルエンは塗料・インク・接着剤の原料、シンナーの原料、各種化学品の原料として使用されており、非常に汎用性が高い有機溶剤である

トルエンの製造メーカー・価格帯

ここからはトルエンの製造メーカーや価格帯について記載していきます。

マニアックな内容になるので、一般の方が知る必要はないのですが、有機溶剤を取り扱うメーカー、ユーザー、販売店の方は参考知識として知っておいた方が良いと思います。

ここで言う製造メーカーとは実際にトルエンを製造しているメーカーのことを言います。

一般的にGoogle検索などで「トルエン 製造メーカー」と検索すると、試薬としてトルエンを扱っている会社や小分けメーカーがヒットしますが、ほとんどは製造メーカーではありません。

トルエンのメーカー

トルエンの製造メーカーは非常に多いのですが、メーカーによってそれぞれ製法が違います。

トルエンのメーカー

出光興産ENEOSコスモ松山石油丸善石油化学

NSスチレンモノマーJFEケミカル

大阪石油化学、三井化学、三菱ケミカル東ソー

※リンクをクリックすると、企業の製品ページに飛びます。

※製品ページがないメーカーにはリンクがありません。

トルエンはナフサクラッカーと呼ばれる分解炉で、ナフサから抽出したり、分解ガソリンと呼ばれるものからの抽出、コークスガスからの抽出など色々な方法で製造されます。

個人的にはナフサから抽出されるトルエンが一般的だと考えていますが、簡単に図式化すると以下のようになっています。

トルエンはナフサから生成され、ナフサは原油から生成されます。

つまり、トルエンの価格は原油の価格に連動するということがわかります。

トルエンの価格帯

ここではトルエンの価格帯について見ていきます。

ちなみに以下の内容はBtoBの価格です。

また、後述しますが、トルエンは毒劇物取締法の劇物に当たりますので、個人の方は購入する機会はほとんどないと思います。

トルエンの価格帯

以下の価格は市況により変わるため、幅をもたせて表示しています。

一斗缶の場合:3000-6000円/缶

ドラム缶の場合:120-250円/kg

※ナフサ価格、購入ルートなどの条件によっては上記価格からさらに前後することがあります。あくまで参考値であることに留意してください。

実は後程紹介する動画の中では、トルエンの価格を上記より低く記載しておりました。

しかし、2022年9月現在、ロシアのウクライナ侵攻と各国の制裁の影響で原油価格が未曾有なほどに高くなっており、また需給バランスの悪さから、トルエンが非常に高騰しています。

上記より高い価格で流通していることもあるので、あくまで参考程度としてください。

トルエンの購入について

トルエンは毒物及び劇物取締法(通称:毒劇法、毒劇物取締法)に該当している物質です。

そのため、特に一般の方が気軽に購入できるものではありません。

購入の際には身分証明書の提示や毒劇物の譲受書の記入が必要となります。

また、販売店の方がメーカーから仕入れて販売する場合には、毒劇物を販売するための登録が必要となります。

毒劇物については、別の記事にまとめていますので、わからない方は以下を参照して下さい。

毒物及び劇物取締法とは? 有機溶剤と毒劇法の関係

トルエンのメーカー、製法は様々あるが、ナフサから精製されるトルエンが一般的で、原油価格に連動して価格が変動する

トルエンとは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

ここまでを通してトルエンとは何かについて理解頂けたでしょうか?

トルエンのことが全く分からないという方でも、少しでもわかるようになったということであれば幸いです。

トルエンは油や樹脂の溶解力が優れており、比較的安価なため、工業的に使用するには非常に良い溶剤だと思います。

性能が優れいている一方で、毒性が高いという特徴もあるので、取り扱いには注意が必要です。

今回のトルエンとは?(~有機溶剤徹底理解 トルエン編~)はyoutubeの内容を元に作成しています。

興味がある方は動画を閲覧ください。