皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマは「シンナーとは?」についてです。
シンナーというワードは知らない方がいないくらい認知がありますが、シンナーという言葉の定義を説明できる人は少ないと思います。
今日はシンナーとはそもそも何なのかということについて解説していきます。
ちなみにシンナーのことを知る前に有機溶剤のことを理解いただいた方が、内容がわかりやすくなると思いますので、まだ以下の記事を読んだない方は一読頂けると幸いです。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
シンナーとは?
シンナーというとイメージとしては、「塗装に使うもの」「危険」「安い」といったことを思い浮かべる人も多いのではないかと思います。
シンナーについて調べてみると以下のような定義が載っていました。
シンナー (paint thinner) はラッカー、ペイント、ワニスなどの塗料を薄めて粘度を下げるために用いられる有機溶剤である。「うすめ液」とも呼ばれる。英語 thin は「薄める」を意味する動詞である。
シンナー – Wikipedia
上記は非常に模範的な回答だと思います。
しかし、シンナーは塗料の希釈剤以外の用途としても使われるので、ここではより端的で別の定義をします。
シンナーの定義
シンナーとは?という質問に対しては多くのサイトで以下のように解釈されています。
詳しくは後述しますが、シンナーは塗料希釈以外の様々な用途で使用しているので、シンナーそもそもがどういうものかを表す定義がふさわしいと考えています。
シンナー = 混合溶剤
シンナーというものは色々な溶剤が混ぜ合わさってできています。
その溶剤を混ぜ合わせたものに「〇〇シンナー」「△△シンナー」と名付けているだけに過ぎません。
シンナーの成分
「シンナーとは有機溶剤が混ぜ合わさったものに、シンナーと名付けているだけ」ということをより理解できるようにシンナーの成分について見ていきましょう。
シンナーに使用される溶剤は以下のようなものがあります。
トルエン(トロール) | MEK(メチルエチルケトン) |
キシレン(キシロール) | MIBK(メチルイソブチルケトン) |
アセトン | メタノール |
酢酸エチル | ブタノール |
酢酸ブチル | イソブタノール |
高沸点#100(ソルベント100) | 高沸点#150(ソルベント150) |
上記に書いてあるような溶剤を組み合わせて用途別にラッカーシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナー、エナメルシンナーという名前で売られています。
一方、必ず混合溶剤でなければシンナーと呼べないのかというと、そうではありません。
単体溶剤でもシンナーとして売られている
有機溶剤を1種類しか使用していない場合もシンナーとして売られる場合があります。
以下は一例として挙げてみました。※実際に以下のシンナーが存在しているわけではありませんが、ただの溶剤にシンナーという名前を付けている点では同じです。
・灯油 100% → 遅乾性シンナー
・酢酸エチル 100% → NTXシンナー
上記のようにたとえ1つの有機溶剤しか使っていなくとも、商品名が「シンナー」となっていればシンナーになります。
繰り返しになりますが、シンナーとは単体溶剤または混合溶剤に対して、メーカーが「シンナー」という名前を付けているだけに過ぎません。
また、シンナー全てが塗料希釈剤に使用されているわけではないので、「シンナー=塗料希釈液」として解釈すると間違いではないものの、混乱する可能性があります。
シンナーとは、混合溶剤(単体溶剤でも可)に「シンナー」と名付けただけのものである。
シンナーの用途
ここからはシンナーの用途について解説していきます。
シンナーの用途は大きく分けて、以下の2つがあります。
・脱脂洗浄(油脂類の洗浄)
・樹脂洗浄(塗料・インク・接着剤等の希釈・洗浄)
それぞれの用途について詳しく見ていきます。
シンナーによる脱脂洗浄
工業用の用途として、シンナーを使用して脱脂洗浄を行うことはよくあります。
しかし、全てのシンナーが脱脂洗浄に使用できるというわけではなく、シンナーに使われている成分が非常に重要です。
・トルエン(トロール)
・キシレン(キシロール)
・アセトン
基本的に炭化水素系有機溶剤は脱脂洗浄力が高く、さらに芳香族炭化水素と呼ばれる亀の甲羅のような構造を持つトルエン・キシレンは脱脂洗浄力が非常に高いです。
高沸点#100、高沸点#150と呼ばれる成分も炭化水素系有機溶剤なので脱脂力はありますが、脱脂作業の際は速乾性を求めることが多いため、トルエン・キシレンの方が良く使われます。
※キシレンは高沸点#100、高沸点#150と同様に第二石油類ですが、脱脂用シンナー原料としてはキシレンの方が良く使われている印象があります。
なぜ炭化水素系有機溶剤は脱脂力が高いのか?
少し話は脱線しますが、なぜ炭化水素系有機溶剤の脱脂力が高いのかを説明します。
そもそも脱脂の対象となる油(機械油)は石油由来の炭化水素系に分類されます。
そのため、同じ分類である炭化水素系溶剤を作用させることにより、お互いが溶け込みやすく、脱脂ができるということになります。
非常にざっくりいうと、油(炭化水素)を油(炭化水素)で洗浄しているようなイメージです。
アセトンは炭化水素ではありませんが、脱脂力がある溶剤ですので、シンナーに含まれていると脱脂力があると判定できます。
脱脂シンナーの見極め方
トルエン、キシレン、アセトンが入っていると脱脂シンナーとして使用できるとして、シンナーにその成分が入っているかどうか確かめる方法を説明します。
大きく分けて以下2つで確認できます。
①ラベルやSDSで成分表示を見る
②商品名から推測
一番簡単で確実なのは、ラベルやSDSの成分表示を見ることです。
トルエン、キシレン、アセトンはどれも通知対象物質と言って、ラベルやSDSに成分名を表示することが義務付けられています。
また、SDSではその成分が何パーセント入っているかも記載する必要があるので、これらの成分の含有量によって脱脂に使用できるかがわかります。
続いて、商品名から推測する方法があります。
単純に【脱脂シンナー】という商品名がついていることもあります。
一方で【NTXラッカーシンナー】など【NTX】と付いているものは、「NTX=ノントルエンキシレン」の略称のため、トルエンとキシレンが入っていません。
ある程度製品の特性を知っていると推測できますが、②の方法は業界人でないと判断が難しいと思います。
シンナーによる樹脂洗浄
続いて、シンナーによる樹脂洗浄について説明していきます。
そもそも【樹脂洗浄】とは何のことを指すのかというと、樹脂を含んでいる製品先般のことを指しています。
具体的には、塗料やインク、接着剤など主要な原料が樹脂であるもののことです。
シンナーの原料は樹脂溶解力が高いものが多く、これらの樹脂成分を効果的に溶かします。
塗料、インク、接着剤の樹脂を溶かすことによって洗浄ができるという仕組みです。
剥離という概念
樹脂そのものを溶解(溶かす)のであれば、樹脂溶解と言われますが、樹脂を塊のまま取ってしまうことを剥離といいます。
「付着した樹脂を取る、洗浄する」という意味では同じですが、樹脂溶解は【溶ける】のに対して、樹脂剥離は【剥がれる】ため、見た目の事象が違います。
シンナーは脱脂洗浄や樹脂溶解・洗浄に使用されるなど用途は様々である。塗料の希釈剤としてのシンナーは樹脂溶解に分類される。
真のシンナーの定義とは?
ここで改めて本当のシンナーの定義について見ていきましょう。
前述した通り、シンナーとは混合溶剤(単体溶剤でも可)に「シンナー」という名称を付けただけのものです。
シンナーの用途でも確認した通り、シンナーは塗料の希釈剤だけでなく、油の洗浄(脱脂)、塗料・インク・接着剤などの樹脂類の洗浄・希釈・剥離に用いることができます。
混合溶剤に「シンナー」という名前を付けるだけ、という表現にしっくりこない方もいると思うので、1つ例を挙げて説明します。
シンナーと同じ配合の別製品
例えば、以下の溶剤が入っているラッカーシンナーがあったとしましょう。
配合から見てもごく一般的なラッカーシンナーの成分です。
あるラッカーシンナーの配合:トルエン、キシレン、MEK、酢酸エチル
このシンナーの配合では、脱脂力・樹脂溶解力が非常に高いことが考えられます。
そのため、名称を「ラッカーシンナー」ではなく、油も樹脂も洗浄できる「万能クリーナー」と名付けてみたらどうでしょうか?
シンナーと名付けるか、価値のありそうな名前で名付けるか
製品名は通常メーカーが付けます。基本的にはどんな名前でも問題ありません。
ここでシンナーと名付けることによるメリットとデメリットを考えてみましょう。
●メリット
・イメージしやすい
・馴染みやすい名前
・溶解力が高そう
●デメリット
・安価なイメージ
・危なそう
上記の他にもメリット・デメリットは考えられるとは思いますが、シンナーという言葉自体に既にある程度のイメージがついてしまっていることが問題になることもあります。
一方、同じ配合で同じ機能があるのにも関わらず、「万能クリーナー」と名付けると、「万能」という言葉に引かれて「凄そう」、「何かよさそう」、「高そう」といったイメージを持たせることもできます。
結局、どう名付けるかによる
上記の場合、例えばラッカーシンナーが一斗缶で3000円/缶で売れるとすると、万能クリーナーとして販売すれば4000-5000円/缶で売れることもあるでしょう。
もちろんシンナーに対する認知度と万能クリーナーという突飛な名前の商品の認知度では大きく違うので、数を多く売ろうとすると、シンナーとして販売した方がよいとも考えられます。
ここまでの説明で何が言いたいかというと、結局はメーカーが誰に、何のために商品を売るかによってネーミングが変わるので、シンナーというモノ自体も所詮は単体溶剤・混合溶剤にシンナーという名前を付けただけに過ぎないということです。
シンナーとして販売することにより安価で馴染みやすい製品として幅広く販売できる一方、同じ配合でも違う名前で販売されていることがあり、値段が変わる。
シンナーとは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
シンナーという言葉の意味を調べると、大抵は「塗料の希釈剤、うすめ液」のような意味が載っています。
私自身この業界に入るまでは、シンナーは塗料用のうすめ液だと思っていましたので、脱脂洗浄のような他の用途で使えるとは思ってもいませんでいた。
言葉の定義自体は間違ってはいないですが、「塗料の希釈剤」として認識してしまうと他の用途で使われていることへの理解ができなくなってしまいます。
今回の内容を通して、シンナーとは何かをご理解頂ければ幸いです。
今回のシンナーとは?はyoutubeの内容を元に作成しています。
興味がある方は動画を閲覧ください。
シンナー = 塗料の希釈液