皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマは引火点についてです。
一部の例外を除き、ほとんどの有機溶剤は引火点を持っているため、引火して燃えます。
今日は引火点についてわかりやすく解説していきます。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
引火点とは?
引火点の意味を検索するとWikipediaでこのように載っていました。
引火点とは、物質が揮発して空気と可燃性の混合物を作ることができる最低温度である。 この温度で燃焼が始まるためには点火源(裸火、火花など)が必要である。
引火点 – Wikipedia
正直、この説明ではわかりづらいなと思いました。
引火点を簡単に説明すると、
引火点とは火元がある時に液体が簡単に燃える(引火する)時の温度のことです。
例えば、ガソリンが引火性の高い液体であることは誰でも知っていると思います。
ガソリンも有機溶剤の一種ですが、ガソリンの引火点は-40℃以下と非常に低いため、仮に冬場で0℃の気温下でも簡単に火が点いてしまいます。
そのため、ガソリンスタンドでは静電気が点火源(火元)とならないように、給油前に静電気除去シートに触れるよう指示されます。
もう少し具体的な例をいくつか見ていき、引火点に関する理解を深めましょう。
引火点とは、火元(点火源)がある時に液体が簡単に燃える(引火する)時の温度のこと。
引火点を考えるための具体例
①灯油は常温では燃えない
灯油は引火点は40℃程度で、有機溶剤の一種です。
皆さんは、灯油は常温では燃えない(引火しない)ということをご存じでしょうか?
つまり、常温(20℃程度)で灯油に火のついたマッチ棒を近づけても引火することはありません。
これはなぜでしょうか?
液体(有機溶剤)が引火点以上になっている時に、点火源があると簡単に燃えます(引火します)。
液体は保管されている場所の室温と同じになると考えると、灯油の液温は20℃です。
しかし、灯油は引火点40℃の液体なので、20℃の時に火を近づけても引火することはありません。
「百聞は一見に如かず」ということでイメージが湧かない方は以下の動画を見て頂いた方がいいです。
②日用品で考える引火点
有機溶剤ではなく、日用品から引火点について考えてみましょう。
例えば、炒め物や揚げ物をするときに使用するサラダ油は引火点が250℃以上あります。
そのためガスコンロで火にかけていても油自体に引火することはなく、安心して使えます。
もしサラダ油の引火点が20℃だったら、常温保管された油はガスコンロの火で一瞬にして引火します。
時々ニュース等で見かける油による火災事故は、油が発火することにより起きています。
これは発火点というものが関わっており、引火点とは別です。後程、引火点と発火点の違いを説明します。
引火点と発火点の違い
引火点と発火点は定義が全く違います。
発火点はWikipediaによると以下のように載っています。
発火点(はっかてん)とは、発火する限界温度のことで、発火温度とも呼ばれる。
発火点 – Wikipedia
やはり意味が分かりづらいので、簡単に説明します。
発火点とは、火元がなくてもその温度に達すると物質が燃えるときの温度のことです。
引火点は、火元(点火源)がないと燃えないため、仮に液体が引火点以上になっていても、点火源が周辺になければ燃えることはありません。
しかし、発火点は物質自らが燃え始めてしまうときの温度のことなので、点火源がなくても燃えてしまいます。
一般的に発火点は引火点よりも遥かに高いので、物質が熱を持つとすぐに燃えてしまうかというとそんなことはありません。
引火点と発火点の違いは、引火点は点火源があると燃える温度であるのに対し、発火点は点火源がなくても、その温度に達すると燃える温度のこと。
こちらも発火点を理解しやすい動画があったので、気になる方は以下を確認してください。
有機溶剤の引火点と発火点
ここでは有機溶剤の引火点と発火点が確認できるように表にまとめてみました。
※クリックすると表が展開されます。
()内は略称または別名を指します。
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
トルエン | 5.0 | 480 |
キシレン | 29 | 480 |
ノルマルヘキサン | -25 | 240 |
イソヘキサン | <-20 | 280 |
シクロヘキサン | -20 | 268 |
メチルシクロヘキサン(MCH) | -4 | 245 |
エチルシクロヘキサン(ECH) | 18 | 238 |
ノルマルへプタン | -4 | 220 |
イソオクタン | 9.9 | 277 |
ノルマルデカン | 53 | 210 |
ソルベントナフサ | 43 | 238 |
灯油(ケロシン) | 40 | 220 |
ガソリン | <-40 | 300 |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
メタノール | 11 | 429 |
エタノール | 13 | 363 |
ブタノール | 37 | 343 |
イソプロピルアルコール(IPA) | 12 | 460 |
ノルマルプロピルアルコール(NPA) | 15 | 371 |
ターシャリーブタノール(TBA) | 11 | 470 |
ベンジルアルコール | 93 | 435 |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
酢酸メチル | -9 | 455 |
酢酸エチル | -4 | 427 |
酢酸ブチル | 22 | 420 |
酢酸メトキシブチル | 62.5 | 410 |
酢酸ノルマルプロピル | 14 | 450 |
酢酸イソプロピル | 2 | 460 |
酢酸アミル | 23 | 360 |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
アセトン | -17 | 540 |
メチルエチルケトン(MEK) | -7 | 516 |
メチルプロピルケトン(MPK) | 7 | 452 |
メチルイソブチルケトン(MIBK) | 17 | 448 |
ジイソブチルケトン(DIBK) | 47 | 345 |
シクロヘキサノン(アノン) | 42 | 420 |
ジアセトンアルコール(DAA) | 61 | 495 |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
エチレングリコール | 111 | 398 |
ジエチレングリコール(DEG) | 124 | 229 |
トリエチレングリコール (TEG) | 177 | 335 |
プロピレングリコール(PG) | 99 | 371 |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
メチルカルビトール(メチカビ) | 93 | 240 |
エチルカルビトール(エチカビ) | 96 | 204 |
ブチルカルビトール(ブチカビ) | 78 | 223 |
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM) | 32 | 270 |
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM) | 79 | 270 |
メトキシメチルブタノール(MMB) | 68 | 395 |
ヘキシルジグリコール(ヘキシルカルビトール) | 140 | データなし |
有機溶剤名 | 引火点[℃] | (自然)発火点[℃] |
---|---|---|
エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート (エチセロアセ) | 52 | 379 |
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート (PMA) | 42 | 345 |
ブチルカルビトールアセテート(ブチカビアセ) | 124 | 290 |
エチルカルビトールアセテート(エチカビアセ) | 107 | 360 |
※参考:職場のあんぜんサイト(厚生労働省) SDS情報
様々な有機溶剤で確認して頂くとわかるように、発火点は引火点より高いです。
一般的に有機溶剤の発火点は引火点より高い。
引火が原因の事故
ここでは実際に有機溶剤への引火により事故が起きた例を紹介します。
1.接着剤に含まれていた有機溶剤の蒸気に引火し爆発
集合住宅の室内改装工事をしていて、接着剤に含まれていた有機溶剤の蒸気に引火して爆発したという事故です。
結露防止用ボードの貼り付けを接着剤で行い、乾燥を待っている間、別の作業に当たっており、作業で使用する補修用パテを柔らかくするため、ライターに火をつけた所、突然爆発しました。
接着剤にはノルマルヘキサン(n-ヘキサン)が65~75%が含有しており、その蒸気が気化しているところに点火源が加わり、引火、爆発を起こしてしまいました。
事故が起きてしまった原因は、
①有機溶剤が充満した空間内で火(ライター)を使用したこと
②作業計画を作成していなかったこと(有機溶剤作業主任者が選任されていなかった)
③有機溶剤を含有する製品を使用する際の安全教育が行われていなかったこと
などが挙げられます。
この事故で3名の方が火傷を負いましたが、幸い命に別状はありませんでした。
有機溶剤が引火するという知識があれば、このような事故にはならなかったでしょう。
2.エタノールを使った洗浄作業中に引火し、全身重度の熱傷、死亡
金属加工の工場でエアスプレーを使って、部品に付いたエタノールを吹き飛ばす作業(洗浄作業)をしていたところ、近くにあったストーブの火が作業者に引火し、全身に燃え広がったという事故です。
全身に重度の火傷を負った作業者は病院に搬送されましたが、約2か月後に死亡したそうです。
事故が起きてしまった原因は、
①エタノールという引火性の液体を扱う作業場の近くでストーブを点けていたこと。
②適切な作業指導をしていなかったこと。
➂有機溶剤に関する安全教育が行われていなかったこと。(作業を行われていた方は外国人労働者だったそうで、より注意深く教育にあたる必要があります)
1の例もそうですが、有機溶剤の取り扱いや注意事項における基礎的なことを周知しないまま、作業に当たっていたことが事故の発端になっているので、安全教育がいかに重要かよくわかります。
蒸気は目には見えませんし、液体よりも蒸気の方が爆発的に火が付きやすいです。
(目に見えない無数の溶剤の粒(蒸気)が連鎖的に引火していくので、爆発します)
引火点とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
このブログの内容はYoutubeの内容を元にして書かれています。
特に現場の方が有機溶剤の引火による事故に巻き込まれないようこのブログやYoutubeの内容が役に立てれば良いなと思います。
本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。(より簡潔にしています)
興味がある方は動画を閲覧ください。
有機溶剤については前回の記事を参照してください。記事はこちら。