PRTR法(化学物質排出移動量届出制度)とは?~有機溶剤とPRTR法の関係~

PRTR法とは? PRTR制度とは? 化学物質排出移動量届出制度

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマはPRTR法(化学物質排出移動量届出制度)についてです。

化学物質の中には、ヒトや環境に有害性の高い物質がありますが、その物質がどこからどれだけ出ているのかを監視するのがPRTR法です。

例えば、近所に大きな工場があって、工場から臭いがしたり、モクモクと煙が出ていたら気になってしまうと思います。

PRTR法によってその情報が公開されているので、どんな人でも自由にその情報にアクセスして知ることができます。

今回はPRTR法とは何かということと、有機溶剤とPRTR法の関係について解説していきます。

有機溶剤がそもそも何かということがわからない方は以下を参照して下さい。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

PRTR(化学物質排出移動量届出制度)とは?

PRTRとは、Pollutant Release and Transfer Registerの略で、日本語訳をすると、化学物質排出移動量届出制度という意味になります。

業界的にはPRTR法、PRTR制度と2つのワードが使われることが多いです。

PRTR法は、ざっくり言うと「有害な化学物質の動きを管理・公開します」という制度です。

PRTR法に該当している物質がいくつかあり、特定第一種指定化学物質、第一種化学物質、第二種化学物質の3つに分類されます。

特定第一種指定化学物質

特定第一種指定化学物質とはPRTR法の分類の中で最も有害性が高い分類です。

特定第一種指定化学物質に該当している物質は、発がん性や生殖細胞変異原性、生殖発生毒性があることがわかっています。

2022年現在では以下の15物質が特定第一種指定化学物質に該当しています。

号番号物質名CAS No.
33石綿1332-21-4
56エチレンオキシド75-21-8
75カドミウム及びその化合物
88六価クロム化合物
94クロロエチレン75-01-4
243ダイオキシン類
305鉛化合物
309ニッケル化合物
332砒素及びその無機化合物
3511,3-ブタジエン106-99-0
3852-ブロモプロパン75-26-3
394ベリリウム及びその化合物
397ベンジリジン =トリクロリド98-07-7
400ベンゼン71-43-2
411ホルムアルデヒド50-00-0

第一種指定化学物質

第一種指定化学物質は、人や生態系への有害性があるとされている化学物質で、2022年現在462物質が対象となっています。

先ほどの特定第一種指定化学物質には有機溶剤の該当はありませんでしたが、第一種指定化学物質には複数の有機溶剤が該当しています。

ちなみに特定第一種指定化学物質というのは、この第一種指定化学物質の462物質の中の一部という扱いなので、15/462物質が特定第一種指定化学物質となります。

PRTR法の有害物質について語る際は、この第一種指定化学物質を対象にしていることが多いです。

この第一種指定化学物質に該当している代表的な有機溶剤は以下です。

号番号物質名CAS No.
53エチルベンゼン100-41-4
57エチレングリコールモノエチルエーテル110-80-5
58エチレングリコールモノメチルエーテル109-86-4
80キシレン1330-20-7
172ジメチルホルムアミド(DMF)68-12-2
186ジクロロメタン75-09-2
262パークロロエチレン127-18-4
269フタル酸ジオクチル(DOP)117-84-0
281トリクロロエチレン79-01-6
300トルエン108-88-3
3841-ブロモプロパン106-94-5
400ベンゼン71-43-2

PRTR法第一種指定化学物質に該当している有機溶剤は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)や特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当しているような有害性の高いものが多いです。

PRTR法第一種指定化学物質462物質全てのリストは以下で参照できます。

PRTR法 第一種指定化学物質リスト

引用元:経済産業省

第二種指定化学物質

第二種指定化学物質には100物質が対象になっており、第一種指定化学物質と同様に人や生態系への有害性があるとされている物質が指定されています。

PRTR法の第一種と第二種指定化学物質の違いは、有害性の度合いで、第二種の方が第一種に比べ有害性は低いために分けられています。

この第二種指定化学物質には汎用的に使われている有機溶剤は該当していません。(2022年6月時点)

経済産業省のサイトにPRTR制度の第二種指定化学物質のリストが挙がっておりますので、興味のある方は以下を参照して下さい。

PRTR法 第二種指定化学物質リスト

引用元:経済産業省

化管法とPRTR制度

PRTR制度(PRTR法)を考える際によくわからなくなってしまうのが、他の法律との関係性です。

PRTR制度は化管法に含まれています。(PRTRは正しくはPRTR制度という呼び方ですが、業界的にはPRTR法と呼ばれることが一般的です。)

上記の画像のように、化管法の中にPRTR制度とSDS制度が柱として存在します。

PRTR制度は独立した大きな枠組みだと思われがちですが、1つの法律の中に存在している制度だということです。

以下で、化管法とその中身について解説していきます。

化管法とは?

化管法とは、「化学物質排出把握管理促進法」または「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」の略称のことを言います。

化管法は経済産業省の管轄となっており、経済産業省のサイト上では、PRTR制度とSDS制度の2つを柱として、化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的にすると説明されています。

要するに化管法においても、人や環境に対して有害性のある化学物質を管理・把握することを目的にしているということです。

SDS制度とは?

SDS(安全データシート)には、化学物質を使用する際に、その化学物質がどういう特徴を持っていて、どんな有害性があるのか、使い方、緊急時の対応などが記載されています。

そのため、「労働者(使用者)が化学品を使用する」という観点から労働安全衛生法(労安法、安衛法)においてSDSのことが定められていると考えられがちです。

実際は、労安法だけでなく、この化管法でもSDSについて定められており、SDS自体が複数の法律と関係していることがわかります。

労安法で定められるSDSと化管法で定められるSDS制度では目的が違うので、以下の表でまとめます。

法律管理省庁目的
労安法(労働安全衛生法)厚生労働省労働者の安全のために、化学物質の有害性や取り扱い情報を与える。
化管法(化学物質排出把握管理促進法)経済産業省化学物質を適正に管理するために、化学物質の特性や取り扱いに関する情報を与える。

上記のように、化管法SDS制度では、化学物質の管理をするために化学物質の特性や取り扱いに関する情報を与えることが義務化されています。

PRTR制度(PRTR法)の概要

PRTR制度が何かということがわかってきたと思いますので、次にPRTR制度の概要を説明します。

PRTR制度では以下の条件に当てはまった事業者が、指定された化学物質(特定第一種指定化学物質、第一種指定化学物質)を一定量使用した場合に届出義務が発生し、届出内容が公開されます。

PRTR 対象者

24業種に該当する事業者

➁従業員数21人以上の事業者

③第一種指定化学物質の年間取扱量が1t以上

※特定第一種指定化学物質の場合は年間取扱量0.5t以上

上記に当てはまらなければ、PRTR制度の届出義務もなければ、事業所や住所等の情報が開示されることはありません。

PRTR法の対象者について以下で補足で解説します。

24業種に該当する事業者

PRTR制度は以下の24業種を対象にしています。

1 金属鉱業
2 原油・天然ガス鉱業
3 製造業
 a 食料品製造業
 b 食料・たばこ・飼料製造業
 c 繊維工業
 d 衣服・その他の繊維製品製造業
 e 木材・木製品製造業
 f 家具・ 装備品製造業
 g パルプ・紙・紙加工品製造業
 h 出版・印刷・同関連産業
 i 化学工業
 j 石油製品・石炭製品製造業
 k プラスチック製品製造業
 l ゴム製品製造業
 m なめし革・銅製品・毛皮製造業
 n 窯業・土石製品製造業
 o 鉄鋼業
 p 非鉄金属製造業
 q 金属製品製造業
 r 一般機械器具製造業
 s 電気機械器具製造業
 t 輸送用機械器具製造業
 u 精密機械器具製造業
 v 武器製造業
 w その他の製造業
4 電気業
5 ガス業
6 熱供給業
7 下水道業
8 鉄道業
9 倉庫業
10 石油卸売業
11 鉄スクラップ卸売業
12 自動車卸売業
13 燃料小売量
14 洗濯業
15 写真業
16 自動車整備業
17 機械修理業
18 商品検査業
19 計量証明業
20 一般廃棄物処理業
21 産業廃棄物処理業
22 医療業
23 高等教育機関
24 自然科学研究所

上記をざっと見ただけでもわかる通り、化学品を取り扱いしそうなほとんどの事業者が該当しているので、24業種は指定されているものの、逆に関わりのない業種はほとんどないと考えた方がいいかもしれません。

➁従業員数21人以上の事業者

PRTR制度には対象となる事業者として、従業員数を設けています。

20人以下の小規模で事業を行っている場合には①の業種に該当していても、PRTRの報告義務は発生しません。

ちなみに従業員数21人というのは、1つの事業所ではなく、1つの企業の全事業所の従業員数を合算した人数のことを言います。

そのため、たとえ1つの工場に10人程度しかいなくても、会社全体で21人以上の従業員がいる場合は対象となります。

③第一種指定化学物質の年間取扱量が1t以上

③が最も重要な部分です。

第一種指定化学物質の取扱量(使用量)が年間1t以上の場合が対象となります。

特定第一種指定化学物質の場合は、半分の0.5tが対象となります。

例えば、第一種指定化学物質であるトルエンを一斗缶(16L入り)を使用している場合、トルエンの比重は0.87として、一斗缶のトルエンの重量は約13.9kgとなるため、

1000[kg] ÷ 13.9[kg] ≒ 71.9[缶]

年間72缶(月間6缶)以上のトルエンを使用していると、PRTRの報告義務が発生する可能性があります。(①②の条件を満たしている場合は、届出義務があります)

上記は、トルエン単体の計算でしたが、シンナーの成分の一部として使用されている場合は、その配合分だけ計算します。

ラッカーシンナーの一斗缶(16L入り)にトルエンが30wt%含まれているとしましょう。

ラッカーシンナーの比重を0.8と仮定すると、シンナーの重量は一斗缶で12.8kgになるため、

1000[kg] ÷ (12.8[kg] × 0.2) ≒ 360.6[缶]

年間391缶のラッカーシンナーを使用すると、PRTRの届出義務が発生する可能性があります。

①②は多くの事業者で該当していることが多いのですが、③の条件を満たさない場合は報告する必要はありません。

また、PRTR制度の第二種指定化学物質の物質を使用している場合はそもそも届出義務がありません。

PRTRで報告するとどうなるのか?

前の章で①~③の条件に当てはまった場合、経済産業省へ届出義務があります。

何を届出し、届出するとどうなるのかをこの章で説明していきます。

PRTR制度では何を届出するのか?

PRTR制度で条件に該当した場合、以下の事項を届出する必要があります。

PRTR 届出事項

・事業者名(会社名)

・事業所名(工場名等)及び所在地

・事業所の従業員数

・事業の業種

・該当する化学物質名(特定第一種、第一種)

・その化学物質の排出量と移動量

つまり、どの会社の、どこの工場で、どんな化学物質が、どれくらい排出・移動されているのかという情報を届出しなければなりません。

さらにこの情報は経済産業省によって一般に公開されます。

PRTR制度の届出するとどうなるのか?

PRTR制度で届出された情報は、一般の人が閲覧できるように公開されます。

公開される情報は届出事項(上記)の情報全てです。

これにより、例えば工場の近所に住む人がその工場からどんな化学物質が排出・移動されているのかなど情報が確認できるようになります。

企業にとっては、PRTR制度の特定第一種指定化学物質、第一種指定化学物質を一定量使用している場合、その情報を常に公開しなければならない可能性があるので、常に周りの目に晒されるような状態となります。

一部の企業では、こうした事業所名や化学物質の公開を嫌い、PRTR制度に非該当の化学製品を使用するなどの動きをしています。

PRTRのデータはどこで見れるのか?

PRTR制度で公開されたデータを見る場合、2つの方法があります。

PRTR制度 データの閲覧方法

①データの開示請求を行う。

②パソコンで「PRTRけんさくん」という専用ソフトを使用して閲覧する。

私はデータの開示請求を行ったことはないですが、パソコンを所有している人であれば、②の「PRTRけんさくん」の使用をお勧めします。

PRTRけんさくんのソフトは以下からダウンロードできます。

※手順1のリンクをクリックするとzipファイルがダウンロードできます。

PRTRインフォメーション広場

引用元:環境省

zipファイルを解凍し、「prtrdas.exe」をダブルクリックすると以下のソフト画面が立ち上がります。

PRTRけんさくん 操作画面 PRTR法

次に、最新のPRTR制度のファイルをダウンロードします。

先ほどのPRTRインフォメーションのリンクの下に最新のデータがあります。

2022年7月執筆現在は最新のデータは令和2年度データになります。

去年(2021年)のデータは来年3月にならないと公開されないので、およそ1-2年前のデータしか閲覧できないということになります。

そのため中には既にPRTRに該当している化学物質を使用していない事業者でも検索で引っかかってきてしまうため、データに遅れがあるということを考慮する必要があります。

詳しい操作方法は以下のマニュアルを参考にしてください。

PRTRけんさくん マニュアル

引用元:環境省

最新のデータ(令和2年度)をロードすると以下のような画面が表示されます。

上記では事業所名や住所、使用している化学物質数(PRTR第一種指定化学物質)が表示されていますが、化学物質名を表示することもできます。

また、事業所名、住所、化学物質を用いて検索をすることもできます。

詳しい使い方は上記のマニュアルを参考にして頂ければ幸いです。

PRTR制度とは?まとめ

PRTR制度について有機溶剤を中心に様々な側面で説明をしてきましたが、細かく見るとまだまだ多くのことがあります。

ここまで見てきた重要なことをまとめます。

PRTRには3つの指定化学物質という分類がある。

・特定第一種指定化学物質 15物質

・第一種指定化学物質 462物質

・第二種指定化学物質 100物質

24業種に該当する事業者

➁従業員数21人以上の事業者

③第一種指定化学物質の年間取扱量が1t以上

※特定第一種指定化学物質の場合は年間取扱量0.5t以上

・事業者名(会社名)

・事業所名(工場名等)及び所在地

・事業所の従業員数

・事業の業種

・該当する化学物質名(特定第一種、第一種)

・その化学物質の排出量と移動量

・データの開示請求を行う。

・パソコンで「PRTRけんさくん」という専用ソフトを使用して閲覧する。

環境省がPRTRについて色々と資料を出しているので、興味のある方は参考にしてみてください。

PRTRとは何か

引用元:環境省

PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック

引用元:環境省

PRTR法(化学物質排出移動量届出制度)とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

PRTR法は有機溶剤だけでなく、様々な化学物質の排出や移動を管理するための制度です。

PRTRに該当している物質をただ使用しているだけでは届出義務が発生せず、色んな条件があることを理解いただけたのではないかと思います。

自分が住んでいる地域の工場でどんな化学物質が、どれくらい使用されているのかを調べてみるのも面白いかもしれません。

この記事はYoutubeにアップされた動画の内容を元に作成しています。※youtubeではより端的に解説しています。

興味がある方は動画を閲覧ください。