アセトンとは?~初めてでもわかる!有機溶剤徹底理解 アセトン編~

有機溶剤徹底理解 アセトンとは?
有機溶剤徹底理解 アセトンとは?

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマは「アセトンとは?」についてです。

有機溶剤徹底理解編ではアセトンのことを全くわからない方でもアセトンのことがわかるように徹底的に解説していきます。

アセトンは有機溶剤の一種ですので、そもそも有機溶剤とは何かがわからない方は以下の記事を参照してください。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

また、この動画はYoutubeで配信した内容を記事にして投稿しております。

興味のある方は動画を参照してください。

※youtubeの内容ではアセトンの構造式をジエチルケトンと間違えて表示してしまいました。その点を注意してみて頂けたら幸いです。

アセトンとは?

アセトンは有機溶剤の一種で、ケトン系有機溶剤の一つです。

※ケトン系とはアセトンの化学構造上、ケトン基という構造を持つもののことを言いますが、アセトンを理解するのに化学の知識は不要ですので、ここでは説明を割愛します。

アセトンは有機溶剤の中でも洗浄性、乾燥性に優れています。

有機溶剤の中には油(加工油等)か樹脂のどちらかしか洗浄できないものが多く存在しますが、アセトンは油も樹脂に対しても高い溶解力を発揮します。

そのため、工業用として様々な用途で使用されています。

ここからはアセトンの基本的な特徴を紹介していきます。

アセトンの3つの特徴

アセトンは非常に使い勝手のいい溶剤ですが、その特徴を3つに絞って解説します。

アセトンの3つの特徴

①安価(MEK、MIBKより安い)

➁万能(油も樹脂もよく溶ける)

➂乾燥が早い

①安価(MEK、MIBKより安い)

アセトンがケトン系有機溶剤の一種であることは前述しましたが、他のケトン系の有機溶剤と比べて安価です。

汎用的に使用されるケトン系有機溶剤として、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)などがありますが、アセトンはこれらの有機溶剤より安価なため入手しやすいという特徴があります。

入手性という点においては、MEK(メチルエチルケトン)は毒物及び劇物取締法に該当しており、まず一般の人は入手できません。

また、MIBK(メチルイソブチルケトン)は一般にあまり知られておらず、流通もしていないため、入手できません。

他の有機溶剤より安いということだけでなく、入手性においてもアセトンは優れていると言えます。

➁万能(油も樹脂もよく溶ける)

前述した通り、アセトンは油も樹脂もよく溶けます(溶かせます)。

ここでいう油や樹脂というのは以下のことを言います。

油、樹脂の例

油(脂)…皮脂(指紋)、工業用加工油(切削油、プレス油、ねじ切油等)など

樹脂…塗料、接着剤、インク、ゴム材など

上記のような油や樹脂がこびりついていてもアセトンであれば落とすことができます。

また、比較的に他の有機溶剤より溶解力が高い傾向にあります。

➂乾燥が早い

アセトンは有機溶剤の中でもかなり乾燥が早いです。

乾燥性を見る指標として沸点を用いますが、アセトンの沸点は約56℃です。

沸点は液体が気体になる時の温度ですので、この温度が低ければ低いほど乾燥が早いことを意味し、逆に高ければ高いほど乾燥は遅いです。

(いわゆる潤滑油等のオイルは乾かないイメージがありますが、沸点が250℃以上あります。)

また、沸点だけで見れば、アセトンはエタノールより乾燥が早いと言えます。

アセトンの物性

SDSからアセトンの物性の主要部分を抜き出しました。

アセトンの物性
項目
沸点56.5℃
引火点-17℃
密度0.791
水への溶解性水溶性

沸点は乾燥性を測る指標になります。一般的に沸点が低ければ低いほど乾燥が早いと考えることができます。

引火点は引火のしやすさを見ることができます。基本的には常温(20℃)以下の引火点の場合には、静電気等ですぐに引火しやすいので気を付ける必要があります。

密度は、液体の重さや容量を計算するときに使用できます。例えば、水の密度は1なので、1Lが1kgですが、アセトンの場合は1Lで0.791kgということになります。

水への溶解性は水溶性です。アセトンは水に溶けやすい性質を持っています。アセトンを水で希釈することはほとんどないですが、水溶性だと消防法上の保管料が多くなります。

引火点については別の記事で解説していますので、参考にしてください。

引火点とは? 有機溶剤と引火点 わかりやすく

また、今回のSDSは以下を参照しています。

アセトンのSDS

引用元:三協化学株式会社

アセトンの有害性

次にアセトンの有害性情報を見ていきます。

以下はSDSの「2.有害性の要約」の健康に対する有害性から抜き出したものです。

アセトンの有害性
有害性の項目区分
眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性区分2B
生殖毒性区分2
特定標的臓器毒性(単回曝露)区分3(麻酔作用、気道刺激性)
特定標的臓器毒性(反復曝露)区分1(中枢神経系、呼吸器、消化管)
誤えん有害性区分2

アセトンは有機溶剤中毒予防規則(通称:有機則)に該当している有機溶剤で、比較的有害性が高いです。

上記の有害性情報を見ても、眼刺激性、生殖毒性、特定標的臓器毒性(反復曝露)で区分2や区分1が見られるため、有害性が高いことがわかります。

(ちなみに区分というのは区分の数字が低いほど危険であるということを意味しています。SDSの有害性情報の見方については別の記事で解説しています。)

SDSの読み方① 誰でも簡単にSDSを読む方法

ここからはアセトンの有害性で特に注意した方がいい生殖毒性と特定標的臓器毒性(反復曝露)について解説します。

アセトンの生殖毒性

アセトンは生殖毒性が区分2となっているので、生殖毒性が高いことがわかりますが、どういう影響があるのでしょうか?

SDSの「11.有害性情報」に詳細が書かれいてるので見てみましょう。

疫学調査で流産への影響なし (ATSDR (1994)) という報告がある。ラットを用いた吸入経路での催奇形性試験において母動物毒性 (体重増加抑制) がみられる高濃度曝露 (11,000 ppm (26.1mg/L)) で胎児体重減少がみられ、胎児の奇形の発現率に有意な増加はみられなかったが、1 つ以上の奇形のある児を持つ母動物の増加 (11.5%) (対照群:3.8%) (EHC 207 (1998)) が報告されている。

また、マウスを用いた吸入経路での催奇形性試験において母動物毒性 (肝臓の相対重量増加) がみられる高濃度曝露 (6,600 ppm (15.6 mg/L)) で胎児体重減少、後期吸収胚の増加 (EHC 207 (1998)) が報告されている。EHC では、ヒトと動物で更に検討が必要であるとの記載がある。
したがって、区分 2 とした。

上記の説明では難しくてわかりづらいと思いますので、簡単にまとめました。

アセトンの生殖毒性(まとめ)

①ラットで胎児体重減少、1 つ以上の奇形のある児を持つ母動物が約11%増加があった。

➁マウスで胎児体重減少、後期吸収胚の増加があった。

※ちなみにマウスは小さいネズミ、ラットは大きいネズミのことです。

試験の内容や専門用語がわからなくても、ネズミを使用した実験で何らかの生殖機能に関する影響があったことがわかります。

一方で、過去の調査により流産の影響がないと報告されているものの、ヒトや動物で更なる検討が必要だとも書かれています。

ここで書かれているのは全て動物のメスに対することですので、女性に対する影響が懸念されるという点も留意したいです。

アセトンは油も樹脂も溶かせる万能な溶剤で、乾燥が早く安価な溶剤であるが、有機則に該当しており、有害性が高い有機溶剤である。

アセトンの用途・業界

ここからはアセトンの用途やアセトンが使用されている業界について、画像を元にイメージで捉えていきます。

これまでの説明でアセトンが何かわからないという方でもわかるよう具体的な事例を元に見ていきましょう。

塗料・インク・接着剤の原料、希釈剤

アセトンは塗料やインク、接着剤の原料や希釈剤として使用されます。

塗料・インク・接着剤は主原料は樹脂ですが、この樹脂成分を溶かして液体状にしておく必要があるため、その役割を果たすのが溶剤成分(アセトン)です。

アセトンは樹脂の溶解力が非常に高く、ケトン系有機溶剤に溶けやすい樹脂成分を使用する場合に使われています。

また、希釈剤はいわゆる「シンナー」のことですが、シンナーも樹脂を溶かす能力が求められるため、アセトンを使用することがあります。

ただし、塗料・インク・接着剤、希釈剤(シンナー)は様々な種類があるため、全てのものにアセトンが使われているというわけではなく、一部の製品に含まれています。

塗料・インク・接着剤の洗浄

アセトンは塗料・インク・接着剤の洗浄にも使用されます。

樹脂溶解力が高いので、塗装器具の洗浄や接着剤を使用した後の器具の洗浄など様々な用途に使用できます。

また、洗浄においてはアセトンの乾燥性が早さがメリットになり、洗浄後にアセトンが揮発してすぐ乾くため、洗った後すぐに器具を使用できるようになります。

脱脂洗浄

アセトンは脱脂洗浄剤として使用されます。

アセトンは樹脂を溶かしてしまうので、影響を受けない金属部品などの脱脂洗浄剤として使用されます。

加工油で使用される切削油、プレス油、潤滑油、防錆油などあらゆる工業用油に対して、優れた脱脂洗浄能力を発揮します。

また、アセトンは乾燥が早いため乾燥工程も早く行えることや、安価で入手しやすいというメリットがあります。

除光液、ネイルリムーバー

ネイルをされる女性の方は既にご存じかもしれませんが、アセトンは除光液やネイルリムーバーの主成分として使用されています。

ネイル自体は樹脂が主成分のため、樹脂溶解力が高いアセトンが使用されています。

トルエンやMEKなど樹脂溶解力が高い有機溶剤は他にもあるのですが、毒劇物取締法に該当しているなど他の法規によって制約を受けるため、販売に制約のないアセトンが広く一般に使用されているのだと思います。

アセトンを使用すると爪や指が白くなることがありますが、これはアセトンにより爪や指の脂分(皮脂等)が脱脂されているために起こります。

実際にアセトンが指について白くなった場合には、手から油分がなくなり、表面がさらさらとした感じがします。

最近ではノンアセトンの除光液、リムーバーもあるようですが、樹脂溶解力、乾燥性、単価の安さにおいてアセトンは非常に優れているため、ノンアセトン製品(アセトンを含まない製品)は値段が高かったり、樹脂溶解力が弱いなどのデメリットが発生すると思います。

参考:ネイルリムーバー用のアセトン

引用元:Amazon

FRP(強化繊維プラスチック)の洗浄

アセトンはFRP(強化繊維プラスチック)の洗浄に使用されます。

FRPは車のバンパーなどの樹脂部品、船の機体、プールの槽など様々な場所で軽くて丈夫なプラスチックとして使用されている素材です。

FRPを加工する際に、硬化前のFRPを洗浄するための洗浄剤としてアセトンが使用されています。

アセトンが樹脂溶解力が高く、安価に手に入るということも使用されている理由の1つだと思います。

参考:FRP洗浄用のアセトン

引用元:Amazon

アセトンの代わり

ここで紹介したアセトンの用途・使用業界は、いずれも以下の3つの特徴のどれかに関連します。

アセトンは油も樹脂も溶かせる万能な有機溶剤で、乾燥が早く、安価で入手しやすい溶剤ということで非常に優れていることがわかります。

そのため「アセトンの代替品が欲しい」という場合には、少なくとも何か1つの条件を手放す必要があります。

全ての条件に適うアセトンの代替品は存在しません。

私が営業としてアセトンの代替品を提案する際には、脱脂用途で使用するアセトンか、樹脂溶解用途で使用するアセトンかを確認して提案します。

また、そもそもアセトンが安価なため、代替品は値段が高くなってしまいます。

その為、有機則・特化則等が非該当になることによって削減できる手間やコストを加味して提案しています。

製品のコストだけでなく、前述のようにアセトンは有害性が高いということがわかっているため、特に工業的に使用する場合は従業員の健康へのリスクを考慮し、使用するか否かを考える必要があります。

アセトンは塗料・インク・接着剤などの原料・洗浄剤として使用されたり、脱脂洗浄剤として使用されている。

アセトンの取り扱い注意点

アセトンの取り扱い注意点として、アセトンは爆弾の原料になります。

除光液やFRPの洗浄用途でアセトンが流通する一方で、このような危険な用途もあるということを知って頂きたいです。

2018年8月大学生が過酸化アセトンを製造し、逮捕された事件がありました。

過酸化アセトンはアセトンを主原料にして比較的簡単に作れてしまう爆弾です。

TATPとも呼ばれ、戦争やテロで使用されるほど殺傷能力の高い爆弾です。

ちなみに過酸化アセトンは製造すること自体が違法ですので、興味本位でも絶対に製造しようとしないで下さい。

過酸化アセトンに関する情報や事件を以下にリンクを貼り付けておきますので、興味ある方はリンク先の内容を参照してください。

過酸化アセトンを製造した大学生逮捕

引用元:exciteニュース

過酸化アセトンについて

引用元:wikipedia

アセトンは過酸化アセトンという爆弾の原料になるが、製造自体が犯罪行為であるので注意。

アセトンの製造メーカー・価格帯

ここからはアセトンの製造メーカーや価格帯について記載していきます。

マニアックな内容になるので、一般の方が知る必要はないのですが、有機溶剤を取り扱うメーカー、ユーザー、販売店の方は参考知識として知っておいた方が良いと思います。

ちなみに製造メーカーというのは、以下の画像のような化学プラントでアセトンを化学合成により製造しているメーカーのことです。

「アセトン 製造メーカー」と検索すると、「アセトンのメーカー10社一覧」のようなサイトが出てきますが、ただの小分けメーカーや販売店も混ざっているので明らかに情報が間違っています。

※画像はイメージです。実際のアセトン製造プラントとは違います。

アセトンのメーカー

アセトンのメーカー

アセトンのメーカーは国内で3社あります。

三菱ケミカル

三井化学

・住友化学

※リンクをクリックすると、企業の製品ページに飛びます。

※住友化学には製品ページがありませんでした。

国内のアセトンの製造メーカーは三菱ケミカル、三井化学、住友化学の3社ありますが、そのうちメインのサプライヤーは三菱ケミカルと三井化学の2社です。

有機溶剤の中には海外からの輸入比率の高い溶剤もありますが、アセトンは国内の使用量を100%国内のメーカーでカバーしています。

そのため、皆さんがアセトンを使用する際は国産のアセトンを使用しているという認識で問題ないでしょう。

一時期、海外メーカーのアセトンが国内で流通していたこともありますが、日本のアセトン価格は海外の価格と比べて安すぎると言われており、現在は海外品は撤退しています。

アセトンの価格帯

ここではアセトンの価格帯について見ていきます。

ちなみに以下の内容はBtoBの価格ですので、個人の方が購入する場合にはより高くなります。

※そもそも個人の方がアセトン一斗缶やドラム缶サイズを必要とするケースはないと思いますし、入手もできないと思います。(爆弾の原料になるため、企業が個人に大容量で売ることはありません)

アセトンの価格帯

以下の価格は市況により変わるため、幅をもたせて表示しています。

一斗缶の場合:3000-6000円/缶

ドラム缶の場合:200-300円/kg

※ナフサ価格、購入ルートなどの条件によっては上記価格からさらに前後することがあります。あくまで参考値であることに留意してください。

アセトンはプロピレンという化学物質を元に合成されます。

プロピレンはナフサから生成されるため、アセトンの価格はナフサ価格によって前後します。

ナフサは石油から生成されるものですので、原油価格が上がると、ナフサ価格が上昇します。

アセトンのメーカーは国内3社。価格はナフサの価格と連動している。

ここまでを通してアセトンとは何かについて理解頂けたでしょうか?

アセトンのことが全く分からないという方でも、少しでもわかるようになったということであれば幸いです。