毒物及び劇物取締法とは?~有機溶剤と毒劇法の関係性~

毒物及び劇物取締法とは? 有機溶剤と毒劇法の関係

皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。

本日のテーマは「毒劇及び劇物取締法とは?」についてです。

「毒物及び劇物取締法」は、名前が長いので通称は「毒劇法」とか「毒劇取締法」と略されます。

有機溶剤に関わる仕事をされる方でも、有機則や特化則等の有機溶剤に関わりの深い法律をご存じの方は多いですが、毒劇物取締法についてしっかりと把握している方はあまり多くないように思います。

「毒物及び劇物取締法」は有機溶剤以外の化学品を対象にするため、理解しづらい部分もありますが、今回は有機溶剤と毒劇法の関係について解説をしていきます。

有機溶剤について理解されていない方はまずは下の記事を参照してください。

有機溶剤とは? 有機溶剤を日本一わかりやすく解説 有機溶剤情報局

毒物及び劇物取締法とは?(毒劇法とは?)

「毒物及び劇物取締法」とは、急性毒性のある化学物質を規制するための法律です。

毒劇法では、毒物、劇物、特定毒物の3つの分類があり、それぞれの定義は以下となっています。

毒物:別表第一に掲げる物であって、​医薬品及び医薬部外品以外のもの。

劇物:別表第二に掲げる物であつて、医薬品及び医薬部外品以外のもの。

特定毒物:毒物であつて、別表第三に掲げるもの。

上記の定義を見るだけで理解できる人はいないでしょう。むしろ非常にわかりにくいと思います。

別表第一~第三に載っているとのことですので、実際に見て頂いた方が早いでしょう。

ここでは毒物及び劇物取締法をインターネット上で見ることができるe-Govを参考にします。

毒物及び劇物取締法 e-Gov

引用元:e-Gov

毒物とは?

毒物は、別表第一に載っているということですが、e-Govのサイト上では以下となっています。

ここでは28物質しか載っていませんが、実際には法令改正等により100種類以上の毒物が追加されています

これが毒劇法のややこしいところなのですが、e-Govのように一般公開された「毒物及び劇物取締法」の条文だけでは施工された当初の28物質しか載っていないので、28物質しかないと思ってしまいがちです。

以下は、「毒物及び劇物取締法」が施工された後に公布されたものです。

昭和二十六年厚生省令第四号 毒物及び劇物取締法施行規則

昭和四十年政令第二号 毒物及び劇物指定令

※上記をクリックするとe-Govのサイトに飛ぶようになっています。

つまり、「毒物及び劇物取締法」を理解するためには、上の規則と指定令まで把握しておかなければ理解できないということです。

昔から化学の業界に精通している人間であればともかく、毒劇法を知りたいと思う方には不親切な設計になっています。

令和4年1月28日に毒物及び劇物指定令の一部を改正されるため、最新の毒物の情報を知りたい方は以下を参照してください。

毒物の種類、対象物質

引用元:国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部

かなり脱線してしまいましたが、有機溶剤情報局としてここで押さえて頂きたいのは、毒物のリストには有機溶剤が含まれていないということです。

過去の法令改正でも毒物に有機溶剤が含まれていたことはありません。

劇物とは?

劇物は、別表第二に載っていますが、毒物の時と同様にe-Govの「毒物及び劇物取締法」には93物質しか載っていませんが、実際にはさらに300種類以上の化学物質が追加されています。

最新の劇物の種類を確認したい方は以下を参照してください。

劇物の種類、対象物質

引用元:国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部

一部の有機溶剤は、この劇物に該当します。

毒劇法に該当する有機溶剤で知っておくべきものは以下の5種類のみです。

有機溶剤名有機溶剤名
トルエン酢酸エチル
キシレンMEK(メチルエチルケトン)
メタノール

300種類以上と聞くと、引いてしまいそうになりますが、たったの5種類と言われれば覚えやすいのではないかと思います。

特定毒物とは?

特定毒物は、別表第三に載っており、e-Govの「毒物及び劇物取締法」には9物質しか載っていませんが、現在では一部が追加されて13物質あります。

最新の特定毒物の種類を確認したい方は以下を参照してください。

特定毒物の種類、対象物質

引用元:国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部

有機溶剤は、毒物の時と同様に特定毒物には含まれません。

ちなみに毒物と特定毒物の違いは、単純に毒物より有害性の高いものが特定毒物とされています。

毒物及び劇物取締法には、「毒物」「劇物」「特定毒物」の3つの分類があるが、有機溶剤は全て劇物に当たり、全部で5種類ある。

毒物、劇物は何が危ないのか?

毒物、劇物と聞くと、もの凄く危険そうなイメージはありますが、いったい何が危険なのでしょうか?

前半では、毒劇物とは急性毒性を有するものと説明しましたが、急性毒性を含む以下の3つが毒劇物に当てはまります。

毒劇物

①急性毒性があるもの(吸入、経口、経皮からの摂取)

➁皮膚腐食性があるもの

➂眼等の粘膜に対する重篤な損傷があるもの

この3の中で急性毒性のあるものということへの理解が重要なので次で解説します。

急性毒性とは?

急性毒性とは、言葉の定義としては、その名の通り化学物質に晒されてから短時間で発症する毒性のことです。

急性毒性を見るための指標としてLC50とLD50というものがあります。

以下では、トルエンのSDSを元に急性毒性について考えていきます。

トルエンのSDS

引用元:三協化学株

LC50とは?

LC50とは、半数致死濃度を意味し、LCは「Lethal Concentration(致死濃度)」、50は「50%(半分)」を意味します。

LC50は濃度を表すので、基本的には気体(吸入)に対して使用される指標です。

実際にトルエンのSDS上で、LC50に関する表記を見てみましょう。

トルエンのLC50について色々と書かれています。

例えば、「7460ppm/4h」というのは「トルエンが7460ppmの濃度ある環境下で4時間いた場合、50%のラットが死ぬ」ということを表します。

そのほか、4時間を基準として、8762ppm、4000ppm、8000ppmなど色々書かれていますが、全てその濃度下でラットがいた場合、50%が死ぬということです。

LD50とは?

LD50とは、半数致死量を意味し、LCは「Lethal Dose(致死量)」、50は「50%(半分)」を意味します。

LD50は量を表すので、基本的には液体(経口)に対して使用される指標です。

こちらも実際にトルエンのSDS上で、LD50に関する表記を見てみましょう。

LD50についてg/kg、mg/kgの単位で色々と数字が書かれています。

例えば、「5000mg/kg」というのは「トルエンを体重1kgあたり、5000mg摂取した場合、50%のラットが死ぬ」ということを表します。

その他、5580mg/kg、5900mg/kg、6.4g/kgというのも体重1kgあたり、その濃度を摂取するとラットが50%死ぬということになります。

毒劇物取締法をわかりやすく言うと?

LC50もLD50も対象となる50%(半分)の生物が急性毒性により死ぬ量のことを言いました。

つまり、急性毒性とは、対象となる生物をネズミとすると、「ネズミ100匹中、50匹が死ぬ」ことを意味します。

さらに毒劇物取締法はこの急性毒性を発生させる化学物質を規制する法律であるため、

毒劇物取締法は「ネズミ100匹中、50匹が死ぬ」化学物質を規制する法律

として解釈することができます。

急性毒性と聞くと非常にイメージしづらいですが、「ネズミ100匹中、50匹が死ぬ」と解釈すれば非常にイメージしやすいのではないかと思います。

もちろん、対象となる動物はラット(ネズミ)だけではなく、ウサギや他の哺乳類であることもあります。

また、毒劇物取締法は急性毒性だけでなく、前述のとおり皮膚腐食性や眼刺激性についても対象としているため、上記の解釈で全てカバーできるわけではありません。

毒物、劇物は急性毒性があり、LC50、LD50によってその危険性がわかる。毒劇物取締法を簡単に言うと、「ネズミ100匹中、50匹が死ぬ」化学物質を規制する法律。

毒物及び劇物取締法で押さえておくべき2つのポイント

これまでの章で毒劇物取締法とは何か、何が危ないのかがわかったかと思います。

しかし、毒劇物取締法には前述のとおり、法律が分岐しており実際には以下の4つがあります。

毒劇物取締法関連法律

①毒物及び劇物取締法​

➁毒物及び劇物取締法施行令​

➂毒物及び劇物指定令​

➃毒物及び劇物取締法​施行規則

これら全ての法律や規則を読み込み、理解するということは一般の人であれば不可能です。

そこで毒物及び劇物取締法を知るために抑えておくべきポイントを2つに絞りました。

毒劇物の登録

毒物劇物には「登録」というものがあります。

毒劇物を製造・販売・輸入する場合には「登録」が必要になります。

一方、よく勘違いされるのですが、毒劇物を使用するのには「登録」は不要です。

この記事を読んでいる方で、毒劇物の製造者や輸入者になる方はほとんどいないと思います。

つまり、実質は「毒劇物の販売には登録が必要で、使用には登録が不要」という2つだけ押さえておけば問題ありません。

毒物劇物取扱責任者

毒劇物を製造、販売、輸入する場合、登録の他に毒物劇物取扱責任者の設置が義務となります。

毒物劇物取扱責任者は誰でもなれるわけではなく、以下の条件に当てはまっている必要があります。

毒物劇物取扱責任者の条件

薬剤師 ​

応用化学に関する学課を修了した者​

毒物劇物取扱者試験に合格した者​

大学の履修科目が影響してくるため、後から毒物劇物取扱責任者になる場合は毒物劇物取扱試験に合格しなければなりません。

毒劇物の購入方法

先ほどの「登録」の話は毒劇物の販売者側の話でした。

ここでは毒劇物を購入するためにはどんな資格、手続きが必要かということを説明します。

まず、毒劇物を購入するうえで必須の条件は「18歳以上であること」です。

また、購入の際には毒劇物譲受書(ゆずりうけしょ)を書く必要があります。

※この書類に明確に名前がついているわけではありませんが、必須事項は共通しています。

毒劇物譲受書には以下の情報を必ず記載する必要があります。

毒劇物譲受書の記載事項

①購入品名と数量

➁販売年月日​

➂購入者の氏名、職業、住所 ※法人の場合は法人名と住所

また、当然上記の記載事項が正しいかどうかを確かめる必要がありますので、身分証明書の提示が必要になります。(身分証明書のコピーが必要になる場合もあります)

毒劇物購入の流れ

毒劇物の購入の流れは購入する販売店によって変わります。

対面販売を必須とするところもありますが、ここでは非対面での販売事例を元に紹介します。

購入予定者から希望の化学品(毒劇物取締法に該当)の依頼があった場合、

①毒劇物譲受書を送付(ネットに書式が公開されている場合もある)

➁購入者(使用者)は毒劇物譲受書を記入・捺印する。

➂毒劇物譲受書と身分証明書のコピーを送付。

※ここでは非対面の販売となるため、身分証明書のコピーを必須としています。

➃商品の発送

上記は簡単に解説した一例ですが、対面の場合やその他の場合もやるべきことは同じです。

毒劇物取締法において、毒劇物の登録、毒劇物の購入(販売)の流れの2つを理解しておくことが重要。

毒物劇物販売の裏話

ここでは販売者側しか知らない毒物劇物販売の裏話をします。

まず、これまでの情報を整理しながらお話していきます。

販売先が法人であった場合、その法人がユーザーになるのか販売店なのかを確認します。

販売店の場合、その先にユーザーがいるので、毒劇物の登録があるかどうかを確認します。

ユーザーの場合、会社名や住所、担当者名、用途、使用量などを確認します。

毒物劇物の個人への販売

では、個人相手の場合はどのように対応しているでしょうか?

販売先が個人(個人事業主含む)であった場合、メーカーや販売店にもよりますが、基本的には販売をお断りしています。

理由は、販売における手間の割に、リスクが高すぎるからです。

具体的な事例を元にその理由を解説します。

例えば、個人の方から「MEKを一斗缶で1缶下さい。」と言われたとします。(MEKは毒物及び劇物取締法の劇物に当たります。)

毒物劇物販売の手間

企業は毒物劇物の販売に当たり、販売方法の説明、毒劇物譲受書の記載依頼、身分証明書の提示依頼などをするのですが、もはやこのプロセスが非常に手間なのです。

「それぐらい金払ってるんだからやれよ」と思われるかもしれませんが、それが手間だというのには、次の理由とも関係してきます。

個人(個人事業主)相手の売上・利益

MEKの一斗缶は相場にもよりますが、個人の方が買うと1缶8000-12000円ぐらいで買えるでしょう。

しかし、企業にとっては1缶販売したところで大した利益はなく、個人の方が継続的に購入するのも難しいことも知っています。

つまり、1つ目の理由と合わせて考えると、「手間の割に継続しない、対して売上も利益のない取引」ということになります。

個人の信用性

また、その個人の身分証明書や用途を確認しているものの、信用できる人かどうかもわかりません。

万が一、販売後に犯罪にでも使われれば販売した側にも一定の責任はあります。

現に毒劇物ではないものの、ガソリンを用いた放火事件は度々起きています。

個人相手では、このような事件に絶対に使われることがないという確信が持てないのです。

上記の理由により、会社としての基本的な姿勢として個人には毒物劇物を販売しないとしている所が多いです。

企業は個人(個人事業主含む)に対し、毒物劇物を基本的に販売しない。(販売しないスタンスを取っている企業が多い)

毒物及び劇物取締法とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)

いかがだったでしょうか?

毒物及び劇物取締法も有機溶剤に焦点を当て、ポイントを押さえて知ることで理解しやすくなったのではないかと思います。

繰り返しになりますが、有機溶剤と毒劇物取締法において押さえておくべき溶剤は以下の5つだけです。

有機溶剤名有機溶剤名
トルエン酢酸エチル
キシレンMEK(メチルエチルケトン)
メタノール

この記事を通して多くの方の毒劇物取締法に対する理解が深まれば幸いです。

本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。(より簡潔にしています)

興味がある方は動画を閲覧ください。