皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマは安全な溶剤とは何か?についてです。
これまでのSDSの読み方シリーズでは、実際のSDSを用いてどのように読むのかを解説してきましたが、今回はSDSを読む際の注意点についてお伝えしていきます。
SDSは化学品(有機溶剤)を販売する側、使用する側の両者が読んで理解する必要があると、これまで述べてきましたが、ここで重要なことをお伝えしなければなりません。
それは、SDS(安全データシート)の内容を鵜呑みにし過ぎないということです。
SDSの内容を鵜呑みにし過ぎないというのはということか、この記事を通して説明します。
これまでのSDSの読み方シリーズをまだ読んでいない方はSDSの読み方①から読んでください。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
2つの有機溶剤、どっちが危険そうでしょうか?
突然ですが、質問です。
IPA(イソプロピルアルコール)を作業に使っていて、IPAの蒸気を吸入してしまうのと、
お酒(アルコール成分=エタノール)を飲むのとでは、どちらが危険そうでしょうか?
その内容を検証していきたいと思います。
IPA(イソプロピルアルコール)の有害性について検証
IPAを使用した作業は多く、脱脂洗浄、基盤洗浄、仕上げ洗浄、帯電除去等の様々な用途に使われています。
局所排気装置や防毒マスクをしない場合、その蒸気を吸い込んでしまうことがあるでしょう。
(厳密に言うと、IPAは有機溶剤中毒予防規則(有機則)に該当してますので、蒸気を吸い込まないようにすることは必須です。)
まずは、IPAの有害性から蒸気を吸い込んでしまった際の危険性を見てみましょう。
危険度の高い区分1~2を見ていくと、特定標的臓器毒性(単回曝露)、特定標的臓器毒性(反復曝露)、生殖毒性で見られます。
IPA(イソプロピルアルコール)は有機溶剤中毒予防規則に該当するため、比較的有害性が強い有機溶剤です。
引用元:三協化学株式会社
エタノールの有害性について検証
エタノールは私たちがお酒として飲んでいるアルコールの成分です。
(「アルコール〇%」と記載してあるアルコールはエタノールのことです。)
お酒としてエタノールを摂取している方は多くても、エタノールのSDS(安全データシート)を見たことがある方は多くないはずです。
以下がエタノールのSDSです。
発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性(反復曝露)で区分1となっています。
エタノールはIPAと違い、有機溶剤中毒予防規則には非該当です。
次でIPAの有害性と並べて、比較してみましょう。
引用元:職場のあんぜんサイト 厚生労働省
「2.危険有害性の要約」を比較
ここまで見てきたIPA(イソプロピルアルコール)とエタノールの有害性を表にまとめて比較してみます。
有害性の項目 | IPA 区分 | エタノール 区分 |
---|---|---|
皮膚腐食性/刺激性 | 区分3 | |
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 | 区分2A | 区分2B |
発がん性 | | 区分1A |
生殖毒性 | 区分2 | 区分1A |
特定標的臓器 全身毒性(単回曝露) | 区分1(中枢神経系) | |
| 区分3(気道刺激性) | 区分3(気道刺激性、麻酔作用) |
特定標的臓器 全身毒性(反復曝露) | 区分1(血液系) | 区分1(肝臓) |
| 区分2(呼吸器、肝臓、脾臓) | 区分2(中枢神経系) |
並べてみるとよくわかりますが、区分1、区分2の数や有害性を比較しても、そこまで大きな差があるように見えないでしょうか?
実際には「11.有害性情報」を確認することで、どちらの危険性が高いのが具体的にわかるようになりますが、大抵は「2.危険有害性の要約」を見て、危険かどうかを判断しているケースが非常に多いです。
上記の表では、事前にエタノールということを言われなければ、発がん性が区分1Aになっているので、右側の方が危ないと感じる方も多いと思います。
「2.危険有害性の要約」の区分だけを比較すると、IPAとエタノールの有害性に大きな差がない、もしくはエタノールの方が悪く見える。
2つの有機溶剤、どっちが危険そうでしょうか?の答え
冒頭のIPA(イソプロピルアルコール)を吸入するのと、エタノールを経口摂取するのでは、どっちの方が危険そうかという質問ですが、「2.危険有害性の要約」のみを見て判断するのであれば、エタノールを経口摂取した方が危険そうだと感じてしまいます。
考えてみてください。
IPAの蒸気を意図せず作業中にわずかに吸入してしまうことと、エタノールを体内に入れ、皮膚より弱い内臓から直接アルコールを吸収させる行為では、明らかにエタノール経口摂取の方が危険そうな行為に思えます。
(実際にはエタノールは体内で分解できますが、ここでは置いておきます)
なぜこのようなことを言うかというと、有機溶剤を使用するという観点で見たときに、あまりにも「2.危険有害性の要約」の情報だけを見て、良し悪しを判断している人が多いからです。
実際にあった間違った判断
これは私が営業として実際に経験したことです。
IPA(イソプロピルアルコール)の代替品として、エタノールが主成分になったものを提案したことがあるのですが、担当者はSDSを見て、「危ないから使いたくない」と判断しました。
SDSの「2.危険有害性の要約」には以下のように書かれていました。
有害性の項目 | 区分 |
---|---|
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 | 区分2B |
発がん性 | 区分1A |
生殖毒性 | 区分1A |
特定標的臓器 全身毒性(単回曝露) | 区分3(気道刺激性、麻酔作用) |
特定標的臓器 全身毒性(反復曝露) | 区分1(肝臓) |
| 区分2(中枢神経系) |
上記はエタノールの有害性の要約の記載そのままです。
これを見て「危ない!使いたくない!」と判断したそうですが、もしその担当者がお酒が飲む方であれば…
「あなた、それを使うどころか、日常的に飲んでますよ。」
と言いたくなるぐらい、誤解されていると思います。
(この事例の場合は、この後しっかりと担当者に説明して納得して頂けました)
GHS分類ガイダンス※区分の決め方等が書かれていますが、非常に厚みがある資料です。
引用元:GHS 関係省庁等
エタノールのSDSを見ると危なそうに見えるが、私たちはその危なそうに見える溶剤をお酒として飲んでいる。
区分だけを見て、化学品の安全性を判断しない
ここで言いたいことは、SDSに書いてある区分だけを見て、有機溶剤(化学品)の安全性を判断してはいけないということです。
(決して、IPAよりエタノールの方が危険だということを言いたいわけではありません。安全性で言えば、エタノールの方が安全性が高いと思います。)
今回は単体溶剤を例に出して説明しましたが、混合溶剤になると、含有物質が非開示のこともあり、より判断が難しくなります。
また、SDSには作成上のルールがあるのですが、読み手に誤解を与えてしまうようなこともあります。(これは次回の記事で解説します)
その為、冒頭でも記載した通り、SDSの内容を鵜呑みにして、有機溶剤の安全性を判断しない方がいいと思います。
「2.危険有害性の要約」の区分だけを見て、有機溶剤の安全性を判断してはいけない。
安全な溶剤とは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
今回、かなり極端な話をしましたが、SDSの一部の内容で溶剤の安全性を判断することは良くないということが伝われば幸いです。
溶剤に限らず、有機溶剤からなる洗浄剤、剥離剤などは全てこの考え方ができます。
このブログの内容はYoutubeの内容を元にして書かれています。
SDSの読み方はシリーズ化していまして、全部で6動画あります。
今回はシリーズの5番目「安全な溶剤とは?」の内容を元にしています。
本記事は有機溶剤に関わる全ての人に向けて書いていますが、Youtubeの内容は有機溶剤の営業向きで作られています。(より簡潔にしています)
興味がある方は動画を閲覧ください。
次の記事は以下から参照できます。