皆さん、こんにちは!有機溶剤情報局のまっすーです。
本日のテーマは「バイオマスナフサとは?」についてです。
最近、脱炭素やサステナビリティの観点でバイオナフサについての話題が石油化学業界でも増えてきました。
従来、石油化学メーカーが化学品を製造するためには石油ナフサを使用していますが、環境的な面を考慮してバイオナフサが使用・検討されています。
今回はバイオマスナフサが何なのか?ということが理解できるようにお伝えしていきます。
前回、石油ナフサについて記事を書いていますので、そもそもナフサが何かわからないという方は以下を参照して下さい。
もくじ ※クリックするとジャンプします。
バイオマスナフサとは?
そもそもバイオマスナフサの「バイオマス」の意味をご存じでしょうか?
バイオマス(Biomass)はBio(生物の)、Mass(量)を表し、そこから噛み砕いていった結果、「(再生可能な)動植物由来の」という意味になり、昨今言葉として使われています。
つまり、バイオマスナフサとは、再生可能な動植物由来の油を原料に製造されたナフサという定義になります。
ちなみに、バイオマスナフサはバイオナフサと略されることもあります。
バイオマスナフサ関連のニュース
バイオマスナフサの具体的な解説に移る前に、なぜバイオマスナフサの解説を使用としたかの背景について説明します。
2021年12月に三井化学の大阪工場でバイオマスナフサが投入されるというニュースがありました。
引用元:日刊ケミカルニュース
詳しくは後述しますが、化学業界は従来石油ナフサを使用してきており、サステナビリティや脱炭素の観点からバイオマスナフサを使用するというニュースとして非常にインパクトが大きいニュースでした。
その後、石油化学メーカーだけでなく、大手商社や石油元売りがバイオマスナフサの検討をしているニュースが増えていったように思います。
では、バイオマスナフサとは何か?従来とどう違うのかを見ていきましょう。
石油ナフサとバイオマスナフサの違い
バイオマスナフサは動植物由来の油を使用して製造されたナフサであることは前述しましたが、従来の石油ナフサとの違いを見ていきましょう。
石油ナフサは化石燃料である石油から生成されて作られており、元々地中に眠っていたものを掘り起こして使用するので、化石資源の枯渇やCO2排出が懸念されます。
一方でバイオマスナフサは光合成の時にCO2を吸収して育つ植物の油や、元々捨てるはずだった動物の油脂を活用して作られるので、石油ナフサを使用するよりもCO2が削減できたり、資源自体が持続可能性があるというメリットがあります。
石油ナフサからバイオマスナフサへの流れは脱炭素やサステナビリティが謳われるようになってから一気に加速したように思います。
バイオディーゼルに近いバイオマスナフサ
バイオマスナフサがイメージしにくいという方はバイオディーゼルをイメージして下さい。
バイオディーゼルは店舗や家庭から排出される廃油を活用して作られるバイオマス燃料です。
日本ではバイオディーゼルで走るバス(廃食油で走るバス)が一時期話題になりました。
バイオディーゼルは見た目、薄黄色の液体です。
バイオマスナフサと製法は違いますが、石油由来の製品にとって代わるものとして、似たようなものであると考えるとイメージしやすくなるのではないかと思います。
バイオディーゼルについて詳しく知りたい方は以下を参照して下さい。
引用元:油藤商事株式会社
バイオマスナフサのメーカー
バイオマスナフサの基本がわかったところで、より詳しく知るためにバイオマスナフサのメーカーを解説していきます。
世界でもバイオマス燃料のトップシェアを誇るフィンランドのNESTE社について掘り下げていきます。
バイオマス燃料のトップメーカー NESTE社
バイオマス燃料のトップメーカーであるNESTE社の基本情報を以下にまとめました。
上記を見て頂くと、NESTE社は世界のバイオマス燃料のトップメーカーでありながら、売上のほとんどは石油精製品(ガソリンスタンド含む)であることがわかります。
参考にフィンランドがどこにあるかわからない方のために地図を載せておきます。
NESTE社が製造するバイオマス燃料
NESTE社はバイオマス燃料の製造拠点をフィンランド、オランダ、シンガポールに持っています。
また、NESTE社は以下のようなバイオマス燃料を製造しています。
・航空機向けジェット燃料:SAF(Sustainable Aviation Fuel)
・トラック・船舶向けディーゼル燃料:Neste MY Renewable Diesel
・工業向けバイオマスナフサ
それぞれNESTE社のHPから情報を集め、簡単にまとめました。
航空機向けジェット燃料:SAF(Sustainable Aviation Fuel)
航空機の燃料には従来灯油(ケロシン)が使われてきました。
当然化石燃料ですので、航空機が飛べば飛ぶほど化石燃料を消費し、環境的には良くありません。
そこで昨今の持続可能性を考慮し、期待されているのがSAF(サフ)というバイオマス由来の原料を使用したジェット燃料です。
ちなみにSAFはSustainable Aviation Fuelの略で、日本語では持続可能な航空燃料を意味します。
NESTE社によるとSAFを使用することで従来の化石燃料に比べ温室効果ガスの排出量を最大80%削減できるそうです。
2022年12月執筆時点で、NESTE社は年間10 万トンの SAF を生産しており、2023 年末までに年間 150 万トンに増やす予定があるようです。
トラック・船舶向けディーゼル燃料:Neste MY Renewable Diesel
トラックが軽油(ディーゼル燃料)で走ることをご存じの方は多いと思いますが、船舶もほとんどがディーゼルエンジンで動いているので、ディーゼル燃料を使用します。
ネステ社のリニューアブルディーゼルは、SAF同様、100%バイオマス原料から作られており、ディーゼルエンジンであればどれにも適合し、使用できるようです。
そのため、トラックや船舶に限らず、リニューアブルディーゼルが使えるということになります。
NESTE社によるとリニューアブルディーゼルを使用することで従来の化石燃料に比べ温室効果ガスの排出量を最大90%削減できるそうです。
日本ではバイオディーゼルによって動くバスや建設機器がありますが、NESTE社のリニューアブルディーゼルは従来のバイオディーゼルよりも芳香族や不純物が少なく、煤(すす)が出にくいことが強みのようです。
日本では、日本郵船がNESTE社のリニューアブルディーゼルを試験的に使用されています。
引用元:日本郵船株式会社
工業向けバイオマスナフサ
石油化学業界では、従来石油ナフサを起点として様々な化学品を作ってきました。
NESTE社のバイオマスナフサは、従来の石油ナフサに変わるバイオマス由来の原料で、今後の石油化学業界の脱炭素への貢献を期待されています。
しかし、2022年12月現在、NESTE社のWEBサイト上では、製品リストにバイオマスナフサについてのものがなく、一部のページにのみ記載がある程度です。
日本国内では、三井化学が試験的にバイオナフサを導入して化学品を製造しています。
後述しますが、供給量の問題で100%バイオナフサで賄うことは難しいため、石油ナフサと混ぜて使用しています。
引用元:NESTE
ネステ社のバイオマスナフサのSDSがありましたので、リンクを貼っておきます。
引用元:NESTE
バイオマス燃料の原料
ここではNESTE社のバイオマス燃料について紹介していきます。
ここでご紹介するバイオマス燃料の原料は以下のネステ社の2021年年間レポートで確認することができます。
他にもネステ社の情報が色々と書かれていますが、全部で251ページあり、全て英語で書かれているので、日本人としては読むのが厳しいなと感じました。
バイオマス製品の原料についてまとめると、以下ものが使われています。
・動物性脂肪…食肉加工時の食用に適さないもの
・廃食油…食品産業や飲食店の廃食油
・植物油加工廃棄物および残渣…パーム油加工時の残渣
・植物油…持続可能な方法で生産された植物油
また、上記の原料だけでは将来的なバイオマス燃料の需要を賄えないことから、新たな植物油の利用、リグノセルロースと呼ばれる植物から取れる成分の活用、藻類の活用、都市ごみ・廃水由来のグリース(ブラウングリース)などの様々な研究を行っているようです。
詳しい内容を知りたい方はぜひ年間レポートを読んでみてください。
バイオマスナフサの仕組み
ここまででバイオマスナフサとは何か、バイオマスナフサのメーカー、原料について理解頂けたかと思います。
ここからはバイオマスナフサを運用するための仕組みや考え方について紹介していきます。
そもそもなぜバイオマスナフサが環境に良いと捉えられているかですが、以下の2つの理由が挙げられます。
①バイオマスナフサに使用されている植物由来原料を辿ると、植物は水、日光のある環境下で光合成によって二酸化炭素を吸収して成長するため、その植物由来の原料を燃やして二酸化炭素が発生してもプラスマイナスゼロになるという考え方があるためです。
②植物や動物の廃棄物(廃食油や残渣など)を使用しているため、環境によく、限りある石油資源を使うよりも持続可能性があるため。
二酸化炭素の問題、持続可能性への貢献ができるのであれば、バイオマス燃料をもっと使えばいいではないかという考えになりそうですが、現実的には需要量に対して供給量が全く足りていません。
バイオマスナフサの使用方法
バイオマスナフサの使用も同様で、バイオマスナフサ単体で使用できるほどの供給量がないため、石油ナフサと混ぜて使われています。
石油ナフサはナフサクラッカー(ナフサ分解工場)内でエチレン、プロピレンなど主要な化学品に分けられた後に、多数の化学品を製造するのに使われています。
一回のナフサクラッカーを稼働させるのに必要な量をバイオマスナフサだけでは賄いきれず、石油ナフサを混ぜなければならないという事情があります。
ここで、石油ナフサと混ぜて使用するのに、わざわざバイオマスナフサを使用する必要があるのか、という疑問が湧きます。
バイオマスナフサを使用してできた化学品の量を理論上管理するためのマスバランス方式という方法があります。
マスバランス方式とは?
マスバランス方式とは、バイオマスナフサを理論上の割り当てで管理する時に用いられる方法です。
正確には、マスバランス方式とは、ある特性を持った原料とそうでない原料を併用して加工する場合に、特性を持った原料の割合を考慮して、最終製品がその原料に由来するものであると理論上割り当てることを言います。
(つまり、バイオマスナフサにのみ適用される理論ではありません)
上の図の通り解説をしていきますが、ナフサクラッカーに必要なナフサの量を1000tとして、ナフサを石油ナフサ990t、バイオマスナフサ10tの合計1000t使ったとします。
1000tのナフサから100tのIPAができたとすると、1000tのナフサ中、バイオマスナフサは10tの1%使用したため、最終的にできたIPA100tのうち、1%に当たる1t分が理論上バイオマスナフサ由来でできたと考えます。
これがマスバランス方式の考え方です。
マスバランス方式は理論上割り当てることですが、その信用性はどこにあるのでしょうか?
その信用性を担保するためにあるのが、ISCC PLUSの認証です。
ISCC PLUS認証とは?
ISCC PLUS認証(ISCCInternational Sustainability and Carbon Certificationの略)とは、日本語で国際持続性カーボン認証を意味し、バイオマス燃料を使用したという信用性を担保するためにある認証制度です。
先ほどのマスバランス方式では理論上の割り当てですが、誰も承認者がいなければ、割合を偽って好き放題できてしまうので、そういったことを防ぐためにも認証が活用されています。
また、このISCC PLUSはドイツで作られた認証で日本の認証ではありません。
グローバルに通用する認証ですが、環境的な法規、認証等はやはり欧州が強く、欧州初のものが多くみられます。
ここからはISCC PLUSの概要を説明していきます。
ISCC PLUS認証はサプライチェーンで取得する必要がある
ISCC PLUS認証を生かすには、サプライチェーン全体で取得する必要があります。
サプライチェーンとは、製品を調達・製造・加工・販売・消費するまでの一連の流れのことをいいますが、要するに上の画像のようにメーカーからユーザーの全てがISCC PLUS認証を取らなければなりません。
認証にそれなりの費用や時間を要することを考えると、これは非常に大きなハードルだと考えられます。
原料メーカーが認証を取って、それを販売する方式であれば導入しやすいのですが、メーカーが取得して、それを販売する代理店(商社)が取得し、原料を加工する2次メーカーが取得し、最終消費者も取得してようやく認められる。
よほど大手企業でない限り、ここまでしてやる価値を見出せない気がします。
ISCC PLUS認証の登録費用・期間
ISCC PLUS認証を受けるためには当然書類準備や審査の期間と費用が発生します。
まとめると以下のようになっています。
費用 約50-80万円 ※申請をコンサル等に依頼して代行する場合、+100-200万円
期間(準備~審査完了) 約6か月~1年
登録費用自体も高い気がしますが、全く無知の状態で申請できるかはわかりませんので、コンサルに依頼しようとすると、さらにプラスで費用が掛かります。
ちなみに、登録に掛かる費用は会社の年間売上高の金額によって変わります。
ISCCの費用について記載された資料のリンクを以下に貼っておくので興味のある方は確認して下さい。
引用元:ISCC
バイオマスナフサの気になる点
ここまでバイオマスナフサやそれに関わる認証等について解説してきましたが、私が個人的にバイオマスナフサに対して気になっている点を書いていきます。
①バイオマスナフサの量
前述しましたが、バイオマスナフサは廃食油や動物の油脂、植物油の残渣などで、本来廃棄物にしていたものをリサイクルしていますが、これらの原料にも限りがあります。
バイオマスナフサを市場が求める量を供給しようとするのは、現段階でもできていないですし、実質不可能ではないかと思います。
また、原料となる廃食油等は元々廃棄物になっていたわけではなく、バイオディーゼルや他の製品への転用など他の用途で使われていたはずです。
その原料が奪い合いになり、どんどん単価が上がっていくということを考えると、元々廃棄したり、別の用途で使われていたものを奪い合ってまでバイオマス燃料を製造しようとするのは何とも本末転倒感があると感じます。
②バイオマスナフサの考え方
バイオマスナフサは前述した通り、マスバランス方式で考え、バイオマスナフサの投入割合を元に完成品に割り当てます。
しかし、多くの方が期待していることはバイオマスナフサだけで化学製品が持続的に行われる世界だと思います。
①で述べたように、原料になるものが足りず、石油ナフサで補っている量をバイオマスナフサで全て補うのは現実的には不可能なので仕方ないことではありますが、なんだか腑に落ちない感じがします。
③バイオマスナフサの手続き
②に加えて、信用性を獲得するためにISCC PLUS認証を取得するわけですが、その登録に数百万円、更新に毎年数十万円かけることに疑問を感じます。
「一部の人や国が儲けたいからやっているんでしょ?」と捉えられても無理はないと思います。
環境にいいことをしているはずのバイオマスの領域に、信用性を確保するためだけに1社あたり数百万円払うのであれば、そのお金の一部でも環境対策に使えないものかと考えてしまいます。
色んな事を考えていくと、「結局、脱炭素って何のためにやっているんだっけ?」と問うてみたくなります。
バイオマスナフサとは?(Youtube:有機溶剤情報局まっすーチャンネル)
まだまだこれからの展開が気になる所ですが、バイオマスナフサについて理解いただけたでしょうか?
私が関わっている有機溶剤という業界は、石油化学製品(石油から生成される製品)と切っても切り離せません。
持続可能性や脱炭素について考えていかなければならないのは山々ですが、色んな事が急に進み過ぎている気がします。
今後、バイオマスについての動きが進んでこれば、情報をアップデートしたいと思います。
この記事はYoutubeにアップされた動画の内容を元に作成しています。※youtubeではより端的に解説しています。
興味がある方は動画を閲覧ください。
・フィンランドの石油製品製造会社
・世界最大のバイオディーゼル燃料製造会社であり、その他のバイオマス燃料(SAF、バイオマスナフサ等)も製造。
・フィンランドのガソリンスタンドでは最大手。
・売上構成は石油精製品50%、ガソリンスタンド25%、バイオマス燃料25%